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M&Aによる他社の買収は、よりローコストで短期間のうちに事業を成長させる手段として、現在日本国内でも盛んに行われるようになってきました。しかし、M&Aの契約さえ成立させれば事業が確実に軌道にのって利益をもたらしてくれるというわけではありません。重要なのはPMIと呼ばれる、買収後の経営統合のプロセスです。
日本では未だPMIの重要性についての認知が十分とはいえません。多くの企業が買収についての相手先企業との交渉に注力しすぎて、肝心なPMIには十分なリソースを割いていないという実態があります。ですがM&Aの成否は、まさにこのPMIにかかっているのです。今回はPMIの概要・手順・成功のポイントについて解説します。
PMIとはPost Merger Integrationの頭文字をとったもので、直訳すると「合併後の統合」になります。M&Aはいくつかのプロセスに分けることができ、まず相手先の選定を行い、次に交渉と基本合意、そしてクロージングがあって、最後に統合による効果を最大限にするためのPMIの実施となります。ですが本来は、基本合意の段階からPMIの準備を始めるものとされています。
PMIは、買い手側企業がM&Aで想定する効果を上げるため、買収先企業を自社に統合していくプロセスです。実施においては、主に「経営の統合」「業務の統合」「意識の統合」という3つの面からアプローチしていきます。これらの統合が上手くいかなければ、2社の合併によるシナジー効果が生まれない、業務が滞る、社員間に軋轢が生じるといった問題が起き、結果としてM&Aが失敗に終わってしまいます。
PMIをM&Aのプロセスとしてしっかり設定することで、成約後よりスムーズに買収先企業を自社と一体化させ、統合によって期待する効果を早くに上げることができます。そして買収先企業の社員含め、関係者全員が統合の目的や具体的な目標を共有して動くことで、組織としての力を高めることができるでしょう。
まずはPMIを主導する経営者が、その必要性についてしっかり理解することが重要です。ここではなぜPMIによってどのような効果が生まれるかを、より詳しく見ていきましょう。
元々全く別の組織だった2つの会社を、形だけ統合しても成果はすぐには上がりません。買収で多額の費用を払ったから、早く利益を出して元を取りたいと思うのは当然です。ですがまずは2つの組織を一体化させることに全力を尽くすことで、業務がいち早く回るようになり、結果的に期待していたシナジー効果を得る近道となるのです。
具体的には、求める成果を出すためには2つの組織をどのように統合していけばよいか、まず経営陣が明確なビジョンを描くことです。それからその目標を達成するための手法を考え、買収先企業に対して必要なアクションを具体的に設定していきます。トップがこのプロセスをどれだけしっかりと設計できるかが、統合後の成果が現れるスピード感に直結するのです。
PMIを適切に行うことで、従業員がM&Aで不満を抱くことによるモチベーションの低下を回避することもできます。PMIでは統合前に買収先企業が抱える、M&Aを阻害するリスクについてもしっかりと調査することになります。ここで発見できるはずの従業員の問題を放置していると、不満は膨れ上がって大きくなり、社内の対立や人材の流出にも繋がってしまいます。
M&Aでは特に買収先の従業員に大きな負担がのしかかることになります。ストレスのかかる状況では、小さな不満が深刻な問題にまで発展することもしばしばです。事前調査で統合後のリスクとなり得る問題をとらえ、解決のためのアプローチをはっきりと定めておくことで、買収先の従業員にスムーズに統合のための業務を進めさせることができるでしょう。
M&Aの成立後、実際に現場の業務を回していくためには、何よりも内部統制の構築が必要です。特に買収先が小規模な企業の場合、そもそも内部統制がちゃんと構築されていないというパターンが多くみられます。買い手の大企業の内部統制の厳しさに順応できるよう、管理体制をしっかりと整備しなくてはなりません。
システム導入、勘定科目体系や会計処理のルール統一、さらに実際の連結作業など、PMIで設定しおくべき項目は様々です。買収先企業は全てを買い手企業に合わせる必要があるため、実施にあたってはかなりの負担増になります。内部統制についてトップの人間が明確なビジョンを持ってPMIを主導していくことで、今後の業務の土台となる体制を整えることができるでしょう。
M&Aによってシナジーを生み、事業を大きく成長させることで、買い手企業は市場で長期的に安定したポジションを得ることができます。そのためには、何よりも適切なPMIで良いスタートダッシュを切ることが重要になってきます。PMIは統合の土台作りです。しっかりとした土台が無ければ、満足な成果を得ることは出来ず、結果的にM&Aは失敗に終わって買い手側企業は経営にダメージを負うことになります。M&Aの成否は、PMIの出来にかかっているといっても過言ではありません。
企業がM&Aを行う理由は様々です。事業の多角化、マーケットでのシェアの拡大、あるいは生産や流通のコストを抑えるなど。そのどれもが企業を長期的に維持させることを目的としたものです。M&Aが成立すればこれで安泰と考える経営者もいますが、重要なのはPMIを確実に成功させることと心得ましょう。
それでは実際にPMIを実施するための手順とプロセスについて見ていきましょう。PMIの策定から実施に至るまでは、本来ノウハウや経験が必要とされるもので、M&Aを頻繁に行う大企業では専門家のチームを抱え込んでいることが一般的です。
初めてPMIに臨む経営者も、多くの場合は専門家に相談しながら進めていきますが、経営者自身が手順やその意味について抑えておくことが望ましいです。自社の将来がかかったPMIに主体的に取り組むためにも、1つひとつのプロセスの重要性を理解しましょう。
PMIの手順でまず重要なことは、PMIの検討はM&Aの基本合意締結前から始めるということです。とにかく先にM&Aの契約をまとめてしまいたいと思われるかもしれませんが、PMIは早めの段階から準備を進めることが大切です。
何故なら、2つの組織を名実共に統合するには、買収先企業の理念や社風、人事や業務の流れをよくふまえて計画を立てなくてはならず、そのためには相手方の経営者と協力して取り組むことが必須となるからです。買収先企業のことを誰よりもよく理解しているのは、相手方の経営者です。買収先企業の経営者の手が完全に離れてしまう前に、しっかりとした時間をかけて両社でPMIについて考えていかなくてはなりません。
M&Aの買収額を決定するためにも、買い手側企業は買収先企業の適性な評価のために、企業調査を行います。ここでは特に帳簿には現れない、企業の将来的な収益性、内包するリスクなどの情報を集め、相手企業の実態を分析することになります。これをデューデリジェンス(DD)といいますが、DDの結果はPMIにも生かすことができるのです。
PMIは統合のリスクとなる要因を取り除き、スムーズに統合を進めるためのものです。DDで得た、買収先企業の経営実態についての精度の高い情報によって、より的確なPMIの計画を立てることができるでしょう。どうすれば買収先企業が自社の風土にしっかりと馴染み、業務上のシステムなどを受け入れることができるのか、相手をよく知ることによって答えが見えてくるのです。
買収先企業の経営者と共にPMIについて検討し、DDの結果をふまえて内容をブラッシュアップすれば、次は具体的に必要なアクションについてリストアップしていきます。これは一般的にランディング・プランと呼ばれ、組織やルール、人事や労務についての見直しなどの管理面と、各部署のコストの見直しなどの事業面との2つに分けて策定します。管理面では社員のM&Aへの理解を深め、融和を進めるための社内コミュニケーションの推進も重要です。
ランディング・プランでは買収先企業側だけでなく、買い手企業側で必要な作業についても定めていきます。おおよそ3ヶ月~半年の期間内で達成するべき実行計画を立て、これを次のステップでは現場レベルのアクションに落とし込んでいくのです。
PMIの計画範囲はとにかく多岐に渡ります。経営理念の統合からITシステム導入、人事評価制度の見直し、生産ラインやインフラ、取引先についても再検討しなくてはなりません。これら膨大な作業の中で、特に優先度の高いアクションを、M&Aクロージング後の100日間の実行スケジュールである100日プランとして設定します。
100日プランは買収先企業側の実行計画で、長期的なシナジー効果を上げていくための、社内の重要な課題を整理したものです。買い手側企業の経営者は早く利益を上げる体制を作り上げたいと考えるものですが、長期的な視点で考えたとき特に緊急性が高いのは、従業員との面談や取引先への挨拶など、地道な足場固めの作業になります。
PMIとは本来非常に専門的な分野です。ここまでその意味や手順についてできるだけ詳しく解説してきましたが、まだM&Aの相手先企業も見つかっていない段階では、具体的なイメージが掴みにくいという方も多いでしょう。
ここではM&Aを成功に導くため、買い手側企業の経営者の方が抑えておくべきPMIのポイントについてまとめました。今後専門家などのアドバイスも受けながら統合の計画をたてて進めていくことになると思いますが、事業発展の成否を握るPMIで失敗しないため、重要な2つの心構えをしっかりと覚えておきましょう。
M&Aの効果を得るまでには通常数カ月、長くて数年という時間が必要です。ランディング・プランや100日プランは、M&Aクロージング後に比較的短期で実行するべき目標ですが、それが終わった後も長期的な目標や計画に基づいて、統合の進捗を常に確認していかなくてはなりません。
そのためにはPMIの目標をできるだけ明確に定め、経営者などトップの人間が月次や年次で達成度をチェックしていく必要があります。何か問題があればすぐに対応策を打つようにし、経営・業務・意識の全ての統合の面でPDCAを回していくことが重要です。まずはこのM&Aにどのようなシナジーを求めるのかというビジョンをしっかりと持ち、その効果目標の達成にもスケジュールを設けるべきでしょう。それを達成するための行動計画として、より具体的なPMIの目標設定があるのです。
PMI成功の鍵は人にあります。表面的にはシステムなどの統合がスムーズにいけば、PMIは問題なく進んでいるように見えるでしょう。しかし従業員や取引先、あるいは株主の不安な気持ちを置き去りしていると、後々大きなリスクとなってM&Aそのものを破綻させてしまう要因ともなります。
まずは従業員や取引先などをまとめることができる、リーダーシップのある人物をピックアップしましょう。その人物にはM&Aの締結前からコンタクトをとり、早期に統合への理解を得ておくようにします。ここで出遅れると、各部署を牽引することができる肝心な人材が離職してしまい、統合がうまく進まない可能性があるからです。PMIの実行チームにはこれらの人材を積極的に起用することで、現場レベルでもPMIの意義や目標が共有され、スムーズな統合が実現できるでしょう。
今回はM&Aを進める前に理解しておくべき、PMIの概要や重要性、手順について詳しく解説しました。ですが、すでに述べたようにPMIには多岐に渡る知識やノウハウを必要とする分野であり、実際に実行するにあたっては専門家のサポートを受けることをおすすめします。PMIは全く違うシステムや風土をもった2つの組織を統合する作業です。当然一般論では解決できない、いくつもの課題が挙がってくることが想定されるからです。
もちろん関連のセミナーや本から知識を得ることも有益でしょう。大切なのは、必要なサポートを受けつつ、M&Aのシナジーを得るための道すじを自身でしっかり見定め、主体性をもってPMIに取り組むことです。
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