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事業承継とは、簡単にいえば事業を後継者に引き継ぐことです。引き継がれるものは「経営権」や「知的財産」の他にも「企業の財産」があります。事業承継によって自社株式などの企業財産を譲り受けた場合、その金額に応じて相続税や贈与税が課せられます。譲渡する金額が大きいほど税金も高くなることは、容易に想像できるでしょう。
高額な相続税や贈与税がネックとなり、思うように進まないケースも多くあります。そこで中小企業の事業承継を促進するために作られたのが「事業承継税制」です。
事業承継税制を受けるためには複数の要件を満たし、かつ「特例承継計画」を提出しなければなりません。特例承継計画といわれても、どのようなものかピンとこない人は多いでしょう。今回は事業承継税制を受けるために必要な特例承継計画について詳しく解説します。税金の負担を大幅に減らせる重要な制度なので、事業承継を検討している人は、ぜひ最後までご覧ください。
事業承継すると、贈与税や相続税が発生します。支払う税金が高額なため、事業承継ができないと頭を抱える経営者の方は少なくありません。現代の日本では後継者不足もあいまって、廃業を考えている経営者も増加傾向にあります。
このままでは、伝統的な日本の産業は減る一方です。この問題を解決するために作られたのが事業承継税制です。この制度を利用することで、支払うべき多額の税金が猶予、もしくは免除されます。
例えば先代経営者が亡くなり相続が発生した場合、手続きを取ることで後継者が支払うべき相続税が「猶予」されます。そのあと要件を満たし続け、後継者が次の代へ贈与または相続が発生した時点で相続税は「免除」になるのです。この事業承継税制の特例措置は、2018年の税制改正で創設されました。
事業承継税制の特例が創設されたのは、2018年のことです。その前から事業承継税制(以下、一般措置)はありましたが、適用要件が厳しかったため、利用する経営者は多くはありませんでした。そこでさらなる後押しをするために創設されたのが、事業承継税制の特例措置です。
2つを比べると次のような違いがあります。
一般措置 | 特例措置 | |
贈与・相続税の猶予対象株式数 | 総株式数の最大3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 80% | 100% |
承継パターン | 後継者1人まで | 後継者3人まで |
雇用確保要件 | 8割の雇用維持が必要 | 報告書を提出すればOK |
特例承継計画の提出 | 不要 | 必要 |
一般措置に比べると、大幅に緩和されていることがわかります。ただし特例措置は2018年1月1日~2027年年12月31日の10年間限定です。特例措置を利用するためには2024年3月までに特例承継計画を提出する必要があります。
制度を利用して納税猶予を受けるためには、さまざまな要件を満たす必要があります。ここでは区分別に主な要件をまとめました。詳細な要件に関しては、中小企業庁がホームページ上で公開しているマニュアルを確認するようにしてください。
企業は以下の要件を満たす必要があります。
上記は特例措置も一般措置も同様の要件となります。ちなみに中小企業とは、次の要件を満たす企業です。
業種 | 中小企業者(下記のいずれかを満たすこと) | 小規模企業者 | |
資本金又は出資の総額 | 常時使用する従業員の数 | 常時使用する従業員の数 | |
製造業、建設業、運輸業その他業種 | 3億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
出典:中小企業庁「中小企業の定義について」
経営者は以下の要件を満たす必要があります。満たすべき要件は、一部を除いて特例措置も一般措置も同様です。
相続ではなく贈与を選択する場合、贈与する時点で代表者を退任している必要があります。株式などの資産贈与は早めに行い、後継者が育った時点で代表権を移すということはできません。事業承継で贈与を選択する際は注意しましょう。
事業承継税制は、先代経営者以外の特定株主からの贈与や相続であっても利用できます。適用要件は次の通りです。
この先代経営者以外の特定株主ですが、具体的には先代経営者の配偶者、兄弟、甥や姪などが考えられます。また先代経営者と共に事業を設立した第三者の役員なども対象です。
また一般措置では複数の授与者から一人の後継者にのみ贈与が可能でした。しかし特例措置では最大3人までの複数の後継者に贈与が可能です。
後継者は以下の要件を満たす必要があります。
相続と贈与で要件がやや異なる部分がありますので、注意しましょう。複数の後継者がいる場合は、後継者同士で揉め事やトラブルが発生する場合もあります。トラブルを防ぎスムーズに事業承継を進めるためには、先代経営者が事前にしっかり意思表示することも大切です。
特例を受けるために提出必須なのが「特例承継計画」です。後継者の名前や事業承継の予定時期、承継後5年間の事業計画などを記載して提出します。
特例承継計画の提出期間は限られており、2018年年4月1日から2023年3月31日までに提出しなければなりません。
この期間を過ぎてしまうと、特例措置ではなく一般措置になるので早めに提出しましょう。提出先は、事務所の所在地を管轄している都道府県庁の知事です。提出方法は「郵送」のみとなっています。窓口に持って行っても受付してもらえない可能性があるので、注意しましょう。具体的な記載項目は、次の章で解説します。
ここでは特例承継計画書に記載する項目を詳しく解説します。記載するべき項目は以下です。
特例承継計画書の様式は、中小企業庁のホームページからダウンロード可能です。記載例もあるので、参考にするとよいでしょう。
事業承継する企業の情報を記載します。例えば承継する事業がサービス業だった場合は、次のように記載します。
【項目記載例】
1 会社について
主たる事業内容 | 生活関連サービス業(理・美容) |
資本金額又は出資の総額 | 10,000,000円 |
常時使用する従業員の数 | 15人 |
常時使用する従業員とは、労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」を指します。正社員がこれに該当しますが、パートやアルバイト、契約社員などは労働基準法に記載されている条文を元に個別に判断します。
企業役員や個人事業主は、解雇予告を必要とする者に該当しません。よって常時使用する従業員の数には入りません。
特例代表者についてという項目は事業を承継する人、つまり先代経営者についての情報を記載します。
【項目記載例】
2 特例代表者について
特例代表者の氏名 | ビジネス 一郎 |
代表権の有無 | □有 ■無(退任日:2022年3月31日) |
退任日の欄には、退任予定日を記載します。すでに退任している場合は、退任した日を記載しましょう。
特例代表者についてという項目は事業承継を受ける人、つまり後継者についての情報を記載します。
【項目記載例】
3 特例後継者について
特例後継者の氏名(1) | ビジネス 太郎 |
特例後継者の氏名(2) | ビジネス 次郎 |
特例後継者の氏名(3) |
後継者の名前は最大3人まで記載可能です。この欄に記載した人物でなければ、特別措置を受けられないので注意しましょう。途中で後継者を変更したい場合は、変更申請書を別途提出する必要があります。
株式の承継時期や、その時期までの経営上の課題、課題への対応について記載します。株式をすでに後継者が取得している場合には「当該時期までの経営上の課題」と「当該課題への対応」は省略可能です。
【項目記載例】
4 特例代表者が有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営の計画について
株式を承継する時期(予定) | 〇年3月1日相続発生 |
当該時期までの経営上の課題 | (株式等を特例後継者が取得した後に本申請を行う場合には、記載を省略することができます) |
当該課題への対応 | (株式等を特例後継者が取得した後に本申請を行う場合には、記載を省略することができます) |
事業承継後5年間の経営計画を記載します。売上目標の数値や、具体的な利益目標を記載する必要はありません。後継者がどのように事業を発展させていく予定なのか、そのためにはどのようなことが必要かについて記載します。記載形式に特に指定はなく、箇条書きで簡潔に記載されていればOKです。
【項目記載例】
5 特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画
実施時期 | 具体的な実施内容 |
1年目 | 郊外店舗の認知度を上げるために、看板の設置やチラシ配布などを行う。会員カードを導入し、リピート率を上げる。SNSの活用 |
2年目 | 店舗数を5店舗から6店舗に増やす 新規顧客管理システム・最新美容マシンの導入 |
3年目 | 本店の改装工事を行なう |
4年目 | 現店舗の実績に基づき、店舗拡大の具体的プランを立てる |
5年目 | 前年の実績に基づいた新店舗の展開 |
特例認定を受けるためには、認定支援機関の関与が必要になります。認定支援機関とは、中小企業の経営をサポートするために国から認められた弁護士や税理士などの専門家のことです。中小企業庁ホームページの検索システムにて探すことができます。
特例承継計画書の別紙に、認定支援機関の所見を記載しなければなりません。認定支援機関の名称と助言をした日、所見内容を記載します。
【項目記載例】
認定経営革新等支援機関による所見等
1 認定経営革新等支援機関の名称等
認定経営革新等支援機関の名称 | 〇〇税理士事務所 |
(機関が法人の場合)代表者の氏名 | 事業 太郎 |
住所又は所在地 | 東京都港区 |
2 指導・助言を行った年月日
令和〇年 4月 1日
3 認定経営革新等支援機関による指導・助言の内容
競合地域において、認知度を高めるための施策が必要。 顧客のリピート率を高めるためのサービスを取り入れることにより、他店との差別化を図るように指導。店舗拡大の資金計画について、〇〇銀行にも相談するように助言。 |
特例承継計画書を提出したが「後継者を追加したい」「後継者を変更したい」などあとから変更したいというケースもあるでしょう。そのようなときは、変更申請書を提出することで変更可能です。
承継後5年間の事業計画に変更があった場合なども、変更申請書の提出が求められます。提出しないと特例措置が認められないので、忘れずに提出するようにしましょう。
事業承継税制の詳細と、適用に必要な「特例承継計画」について解説しました。事業承継を行うと多額の相続税や贈与税が発生する可能性がありますが、事業承継税制を利用することで猶予を受けられます。猶予された税金は適用要件を満たすことで、最終的に免除することが可能です。事業承継を検討している経営者の方は、負担を減らすためにも活用してはいかがでしょうか。
事業承継税制には一般措置と特例措置があり、特例措置を受けるためには特例承継計画の提出が必要です。提出期限は限られているので、猶予を検討しているのであれば、早めに手続きを進めるようにしましょう。
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