生成AI技術の目覚ましい発展により、社会は大きな変革を遂げてきました。ビジネスシーンでの生成AI導入も進められています。しかし、営業の現場において生成AIはどのように活用できるのか。どのようなリスクが想定されるのか。不安に思う方も多いでしょう。
この記事では、生成AIを営業活動に導入するメリットやデメリット、企業による活用事例を紹介します。
営業活動への生成AI導入とは
近年、多様な業界・業種に生成AIが導入されていますが、営業部門において生成AIはどのように導入されているのでしょう。その現状について解説します。
営業活動への生成AI導入の広まり
2022年11月にアメリカのOpen生成AI社が対話型の生成AIサービス「ChatGPT」を開発・提供して以来、生成AIの導入は急速に社会のさまざまな場面へと広がりました。営業活動も例外ではなく、生成AIを搭載した営業支援ツールを利用する企業が増加しています。
営業はその職種の性質上、生成AIを活用するのが困難なようにも思われますが、実際には生成AIとの親和性が高い業務が多く存在します。生成AIを導入することで、営業活動の効率化や生産性向上が図れるのです。
日本の生成AI導入の現状
多くの企業で生成AIの導入が進んでいるようにも見えますが、総務省の調べによると「AIを活用する方針を定めている」と回答した日本の企業は42.7%でした。中国・ドイツ・アメリカでは、約8割の企業が「AIを活用する方針を定めている」と回答しており、日本の企業の慎重な姿勢がうかがえます。
一方、日本の企業のうち「AIの利用を禁止している」としているのは4.3%に留まり「方針を明確に定めていない」としている企業は41.4%にのぼります。今後AIを活用する企業は増える可能性があると見てよいでしょう。
出典:総務省「令和6年版情報通信白書」
営業部門で生成AIができること
生成AIが営業部門でできることは機械的な作業ばかりのように思えますが、近年はさらに踏み込んだ業務のサポートも実現可能となってきました。ここでは生成AIを組み込んだ営業支援ツールの活用例を6つ紹介しましょう。
営業メールの自動作成
メールの宛先や目的、内容などを入力しておくと、自動でメールの文面が作成できます。メールアプリとの連携により、自動送信にも対応できます。毎日のメール送信業務が簡略化され、大きな工数削減につながるでしょう。
また、商談の際の提案書や各種資料の作成など、メール以外の文書作成にも生成AIは活用できます。
商談の議事録作成
商談の際には、その内容が第三者にも分かるよう、テキストとして議事録に残す必要がありますが、商談をしながら内容を正確にメモするのは困難です。録音した場合でも、商談のあとで文字起こしをする手間がかかるでしょう。
しかし、生成AIを活用すれば、ZoomやSkypeなどのツールと連携することで商談の内容をすべて自動で記録できます。「納期」や「予算」などの重要なキーワードを抽出し、サマリーを作成することも可能です。商談の議事録作成という負荷から解放されることで、営業担当者は別のコア業務に注力できるでしょう。
営業のトークスクリプト作成
生成AIを活用すれば、営業のトークスクリプトも短時間で作成可能です。商品やサービスの詳細・ターゲット層などを入力することで、営業トークの導入からクロージングまでの台本が簡単に作れます。商談を行う顧客の詳細な情報を入力することによって、より状況に即したトークスクリプトの生成が可能です。
また、生成AIがトークの練習相手になり、アドバイスももらえるため、トークスキルの向上にもつながります。
営業予測
市場や売上の予測も、生成AIが得意とする分野です。市場の動きや過去のデータを分析し、今後の需要や競合について予測する生成AIも登場しています。また、どのような顧客にどの程度の売上が見込めるかという緻密な予測も可能です。営業担当者はこうした生成AIの予測をもとに営業計画を策定し、見込みの高いターゲットに効率よく営業をかけることができます。
顧客管理・分析
顧客が一定数以上になると、情報の入力・更新作業が煩雑です。入力ミスが起きるおそれがあるだけでなく、営業をかけるタイミングを逃してしまう懸念もあるでしょう。
しかし、生成AIを顧客の管理・分析に活用すれば、顧客の属性や行動履歴を分析することでニーズや価値観を把握し、それぞれの顧客に応じた営業戦略が立てられます。また、アプローチするべき推奨顧客を抽出し、ネクストアクションの提示もしてくれます。
チャットボットによる顧客対応
生成AIと自然言語処理を利用したチャットボットを導入すれば、顧客からの問い合わせに24時間対応可能です。チャットボットは顧客への対応を重ねるなかで学習し、FAQや過去の問い合わせのデータと照合することで、より正確な回答ができるようになります。これによって顧客への対応が自動化されるだけでなく、顧客の利便性が向上し、解約防止が期待できるでしょう。
営業活動に生成AIを導入するメリット
前述のような生成AIの活用によって、営業活動の効率化が見込まれます。生成AI導入によって得られる主なメリットを紹介しましょう。
作業時間が短縮できる
データ入力・情報分析・レポート作成などの定型業務を生成AIによって自動化することで、営業担当者ひとり当たりの作業時間が大幅に短縮できます。少子高齢化にともない、どの業種においても人手不足は深刻な課題となっていますが、生成AIによる業務の効率化は営業現場の人手不足を補ってくれます。
ノンコア業務の負担が低減されれば企業の職場としての魅力も向上し、離職率の抑制や優秀な人材の採用につながるでしょう。
人にしかできない業務に集中できる
前述のような定型業務を生成AIによって自動化することで、営業担当者は人にしかできない業務に集中できるようになります。
「顧客との信頼関係を構築する」あるいは「顧客のニーズを細やかにすくいとる」といった営業の背骨となる業務は、現状の生成AIにとって難しいジャンルです。営業担当者がこうしたコア業務に専念することで、営業部門のパフォーマンス向上が期待できます。
データドリブンな営業活動ができる
生成AIを活用することによって、膨大なデータを迅速に分析して、営業活動に反映させることが可能です。近年のDX化にともない、顧客リストや売上データを蓄積している企業は多いでしょう。
しかし、そのようなデータを正確に分析し活用するには生成AIの導入が必要です。生成AIの分析をもとに効率的な営業計画を策定することによって、営業の品質が向上します。生成AIが提案する成果の出やすい営業手法をチーム全体で共有すれば、個々の営業スキルの底上げにもつながるでしょう。
業務の標準化につながる
生成AIによって定型業務を自動化することで、担当者のスキルに依存しない、安定した営業活動が実現します。営業の現場では、小さなデータ入力ミスや情報の読み間違いが大きな損失につながるおそれがありますが、生成AIに任せることによってそのような誤りを減らすことが可能です。
また、商談の議事録や業務報告書などを瞬時に作成できるため、情報共有がスムーズに行われ、個々の業務の属人化を防ぐことにもつながります。
営業活動に生成AIを導入するデメリット
営業活動への生成AI導入には、メリットだけでなくデメリットも存在します。日本に先駆けて生成AIを導入している国では、すでに問題も発生しています。生成AI導入の際は、以下に挙げるようなリスクも想定したうえで検討する必要があるでしょう。
不正確な情報を生成するリスクがある
生成AIの分析が常に正しいとは限りません。入力したデータに偏りや誤りがあれば、精度の低い分析結果を出す可能性もあります。また、生成AIは感情を持たないため、倫理的に不適切なコンテンツを生成することも考えられます。こうした誤った情報を精査せずに利用してしまうと、大きな損失につながるおそれがあるでしょう。
正確な分析結果を得るためには、継続して質の高いデータを入力・蓄積していく必要があります。また、活用する前に生成AIの分析結果を常に精査する姿勢も求められます。
情報漏洩のリスクがある
生成AIで分析するデータには、顧客の個人情報や企業の機密情報が多く含まれるため、取り扱いには細心の注意を払う必要があります。万一情報が漏洩するようなことがあれば、社会的に大きな問題となり信用を失います。
個人情報保護法をはじめとする法律を遵守し、データの収集・処理・保護に関する取り組みを顧客に開示することが必要です。社員全員がプライバシー保護やセキュリティに関する理解を深め、生成AIを正しく利用するよう心がけてください。
著作権侵害のリスクがある
AIが生成した文書や画像には、著作権を侵害するおそれのあるものが含まれる場合があります。類似性や依拠性が認められるAI生成物については、既存の著作権者の許可が必要です。気づかないうちに著作権を侵害することのないよう、十分に注意しましょう。
導入・運用コストが高額になるリスクがある
生成AIによる営業支援ツールは高機能であるため、導入にかかる費用が高額になります。また、正確な分析結果を導くために品質の高い膨大なデータを蓄積する必要があるため、データの収集や管理、システムのメンテナンスにも時間的・金銭的コストがかかります。それをデメリットととらえる企業もあるでしょう。
ただし、生成AI導入によって得られる成果が導入・運用コストを上回ることも十分に考えられます。高額なコストは一概にデメリットとはいえないでしょう。
導入から保守・運用まで、すべて任せられるサービスも増えています。生成AIの管理を外部の専門業者に委託することも検討しましょう。
企業による生成AI活用事例
ここでは、生成AIを営業活動に導入した企業の、生成AI活用事例を紹介します。
株式会社大塚商会
オフィスサポート業務を担う大塚商会では、dotDataという生成AIを活用したシステムを導入し、長年蓄積してきたビッグデータをもとに、営業活動の効率化を進めてきました。これは商談につながる傾向を生成AIが自動的に抽出し、市場や顧客のニーズを正確に把握して、商談スケジュールを提案する仕組みです。
この「AI行き先案内」の活用によって、経験と勘だけに頼るのではない戦略的な営業活動が実現し、導入から半年で7万件以上の商談が提案されて、商談数は3倍以上に増加。大きな効果が得られました。
みずほフィナンシャルグループ
みずほフィナンシャルグループは、2023年2月よりグループをあげて生成AIを活用した業務効率化を進めてきました。生成AIの活用計画としてPhase1〜3を制定し、生成AIを「とにかく使ってみる」という段階のPhase1から順次導入を進め、お客様へのサービス向上を目指しています。
事務手続照会や、融資の判断材料となる与信稟議書の作成などの業務を、生成AI導入によって自動化して業務効率化につなげるほか「AIによる投資能力判断」「AIによる提案書作成」などの取り組みもスタートしています。
日本生命保険相互会社
日本生命保険相互会社は、営業職員の業務効率化を目指し、生成AIによる営業支援ツールを活用してきました。職員が持つ携帯端末に「訪問準備システム」を搭載し、お客様情報・既契約情報・営業職員による訪問や手続きの履歴を、1つの画面に表示できるようにしています。
また、約1,000万人のお客様情報を分析して、約500に細分化されたセグメントにおける加入傾向やニーズを抽出し、約2,000種類もの活動アドバイスメッセージを表示。営業職員をサポートし、個々のスキルに依存することのない、業務の標準化を目指しています。
生成AIと営業活動の展望
生成AIの導入が広がるにつれ、営業活動の効率化は今後ますます進んでいくと考えられます。生成AIと営業活動の展望を考えてみましょう。
生成AIの導入分野は拡大する
総務省の調査によると、企業における生成AIの活用は現在、メール・議事録・資料作成の補助に留まっている傾向があります。しかし、生成AIは膨大なデータの分析や顧客対応など、多岐にわたる分野で導入が可能です。現に海外の多くの企業で活用されています。
今のところ導入に慎重な企業が多く見られますが、今後生成AIはさまざまな営業活動に利用されていくと見てよいでしょう。
出典:総務省「情報通信白書令和6年版」
生成AIを導入しても営業職はなくならない
生成AIの導入によって、人による営業が生成AIに置き換えられてしまうのではないかと、不安を感じる人もいるでしょう。しかし、人による営業がなくなる可能性は低いと考えられます。現状の生成AIには得意な分野と不得意な分野があるため、生成AIは生成AIの得意な分野で人間の営業活動を支援していくでしょう。
人に求められるのはヒアリング力や顧客との関係構築力、それをもとにしたきめ細やかな提案力です。
また生成AIに対する知識やリテラシーも求められます。生成AIの特性を理解し、正しく使いこなせるようになるかが、生成AI導入を成功させる鍵となるでしょう。
まとめ
生成AIを営業活動に導入することにより、作業時間の短縮やデータにもとづいた効率的なアプローチなど、さまざまなメリットが得られます。営業担当者は人にしかできない業務に専念し、精神的にも身体的にも負荷を減らすことができるでしょう。
その反面、誤った情報の生成やセキュリティの問題など、生成AI導入にともなうリスクも存在します。導入に際しては、生成AIに関する知識・理解を深め、生成AIの強みを十分に活かして、営業活動の生産性を高めましょう。