生成AIが開発されて以来、その進歩は目覚ましく、社会のすみずみにまで活用の場が広がりました。ビジネスシーンも例外ではありません。特にマーケティングの分野では、積極的に生成AIを活用しようとする動きが見られます。
本記事では、生成AIをマーケティングに活用するメリット・デメリットを解説します。あわせて、企業による生成AIの活用事例もご紹介しましょう。
生成AIとは
生成AIとは、学習したデータをもとに、文章・画像・動画・音楽など、多様なコンテンツを自動生成する技術です。「Generative AI」とも呼ばれ、人間が作るものと同等、あるいはそれ以上の品質のコンテンツを生成するという点で、従来のAIとは異なる働きを持ちます。
これまでのビジネスのあり方を根本から変革するほどの存在感を示していますが、クリエイティブな成果物を生む点で、特にマーケティングの分野との相性がよいと考えられています。今後ますますその活用範囲は広がるでしょう。
マーケティングの分野で生成AIができること
生成AIがマーケティングの分野でできるのは、以下のような事柄です。
- 消費者の意識や市場動向の分析
- コンテンツ・広告の生成
- SNSやECサイトの自動運用
- Webサイトのデザイン
- 議事録やその要約・資料などの作成
- 問い合わせ対応・コミュニケーションの自動化
- パーソナライズドマーケティング
生成AIは、文章や画像などのコンテンツを自動生成するため、クリエイティブな性質の強いマーケティング業務との親和性が高いと考えられています。ユーザーの興味関心や行動履歴にもとづき、パーソナライズされたコンテンツや広告を自動で生成することも可能です。これによって、高い顧客エンゲージメントやコンバージョン率の向上が見込めます。
生成AIができることは多岐にわたり、その活用の場は増えていくと考えられます。
生成AIをマーケティングに活用するメリット
生成AIをマーケティングに活用することによって、業務の効率化やコスト削減などのメリットが得られます。それぞれ解説しましょう。
業務の効率化
マーケティングの分野では現状を分析して課題を見つけるほか、課題解決策の立案と実行、市場の動きや競合の分析など、幅広い業務をこなす必要があります。しかし、リソース不足で迅速に業務を進められない現場も多いでしょう。
このような場合に生成AIを活用して業務を自動化できれば、生産性が向上します。たとえば、SNSやECサイトの運用といった繰り返しの多い業務を生成AIに任せることで、担当者はルーティンワークから解放され、よりコアな業務に専念できるでしょう。
コスト削減
コストの削減も、生成AI導入によって得られる大きなメリットです。生成AIはコンテンツの生成が速いため、大量の業務を短時間で終わらせられます。これによって、労働力を大幅に削減することが可能です。また、生成AIは24時間稼働するため、時間の制約を受けることなく業務が進められます。
広告のコピーや記事、デザインも自動で生成できるため、外部への委託も減らすことができ、外注のコスト削減にもつながるでしょう。
高度な提案力
高度な提案力も生成AIの強みです。人がアイデアを出し合って企画を提案するにはある程度の時間を要しますが、生成AIであれば与えられたデータをもとに、何パターンもの提案をスピーディーに作成します。人は生成AIの提案をさらにブラッシュアップして、質のよい企画を立てることができるでしょう。
速いだけでなく、ターゲティングの精度が高いのも特徴です。ターゲットにマッチした提案を行うため、効果的なマーケティング戦略の立案が可能となります。
生成AIをマーケティングに活用するデメリット
これまで紹介したように、生成AIはマーケティングの分野に大きな変革をもたらしました。しかし、そこには懸念されるリスクも存在します。導入に際しては、生成AIのデメリットもしっかりと理解しておきましょう。
情報漏洩のリスクがある
生成AIに入力するデータには、個人情報や企業の機密情報が含まれることがあるため、取り扱いには細心の注意が必要です。インターネットで利用できる対話型の生成AIの場合、入力した情報が生成AIに蓄積されて学習に使われることになります。機密情報が外部に漏れるリスクがあるため注意が必要です。万一情報が漏洩するようなことがあれば、社会的に大きな問題となり信用を失います。データの扱いについては社内でガイドラインを設け、セキュリティ対策を強化しましょう。
成果物の精度が低くなるリスクがある
生成AIで作成したコンテンツは、精度にばらつきが生じたり、バイアス(情報の偏りや偏見など)が含まれる場合があります。生成AIが誤った情報を出力して、それに気づかずに利用してしまうと、大きな問題に発展するおそれがあります。誤情報により特定の人の名誉を傷つけたとして、訴訟問題に発展したケースもあるため、人の目によるコンテンツの内容確認・修正は必要です。文章だけでなく、画像に関しても現実のものと矛盾がないか、よくチェックしてください。生成AIの嘘に振り回されないよう注意しましょう。
著作権を侵害するリスクがある
生成AIが出力した文書や画像などのコンテンツには、著作権侵害のリスクもあります。まったくのコピーはもちろん違法ですが、すでに存在する著作物との類似性や依拠性が認められる場合も、著作権侵害と見なされます。気づかないうちに著作権を侵害することのないよう注意してください。
著作権法には触れなくとも、既視感のあるコンテンツ、特に漫画やイラストなどに似ているケースはSNSで取り上げられ批判されやすい傾向があります。プロのクリエーターの作風に似たコンテンツが作成されていないか、人によるチェックを行い、炎上を避けるようにしましょう。
独創性に欠けるリスクがある
マーケティングに関するすべてのコンテンツを生成AIで作成していると、独創性や人間味が欠けたものになっていくおそれがあります。生成AIは与えられた情報をもとに、パターン化した作成を行うため、インパクトの薄い均質化した作品になりやすいのです。
コンテンツの作成を生成AIだけに任せるのではなく、人間の手による作成もほどよく組み合わせていくことをおすすめします。
生成AI導入のためのポイント
生成AIのポテンシャルを最大限に発揮するため、またリスクを避けるため、導入に際して押さえておきたいポイントを4つご紹介します。
導入テストの実施
生成AIには数多くのメリットがある一方で、懸念されるリスクも存在します。本格的に導入する前にテスト期間を設け、自社のマーケティングに活用するうえで何か問題が起きないか、確認しましょう。有用性に関しても吟味します。費用対効果や他社との差別化について検討し、本格的に導入する前の準備を入念に行ってください。また、導入したあとも継続的に活用方法を見直し、生成AIの効果が最大限発揮できるよう努めましょう。
人と生成AIの協働
すでにお伝えしたように、生成AIはパターンに従ってコンテンツを作成しているため、クリエイティブさが欠如することがあります。それを埋めるのは人です。たとえ生成AIより時間がかかったとしても、人の手による作成には、生成AIに出せない独創性や人間味があります。
また、生成AIが作成することのある不正確なコンテンツについても、その利用を防ぐのはやはり人です。人と生成AIが互いの不得意分野を補い合い、得意分野で力を発揮することによって、より高い生産性が生まれるでしょう。
生成AI運用のルール策定
重要な情報を扱うことの多いマーケティングの分野では、生成AIの利用に際して情報が漏洩しないよう注意する必要があります。
入力したデータが生成AIに蓄積され学習されることのないよう、システムを構築することが求められる一方で、運用のルール作りも必須です。生成AIを利用する範囲や、情報の取り扱いについて、全社員が定められたルールに従いましょう。ルール遵守を徹底することで、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることが可能となります。
社員のAI活用リテラシー向上
生成AIを正しく使うには、社員のAI活用リテラシーの向上も不可欠です。
生成AIには、使う人のリテラシーによってアウトプットの質が左右される傾向があります。時には人を傷つける、あるいは倫理的に問題のあるようなコンテンツを作成することがあるため、注意が必要です。蓄積する学習データに含まれる国籍やジェンダーなどの情報が、思わぬバイアスを生むことも考えられます。
生成AIが出力したコンテンツは必ず人の目でチェックし、場合によっては修正しましょう。AI活用のリテラシーを向上させるには、そのための研修を受けるのもおすすめです。
企業による生成AIの活用事例
生成AI活用のメリットやデメリットを理解したところで、実際に生成AIがどのような企業で活用されているのか、知りたいと思う方も多いでしょう。ここでは、企業による生成AI活用事例を4つご紹介します。
伊藤園 お~いお茶
2023年9月、伊藤園は特定保健用食品の「お~いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMに、日本で初めてAI生成によるタレントを採用しました。本物の人間のような自然な動きや表情で、視聴者を驚かせました。
また、伊藤園は「お~いお茶 カテキン緑茶」の新たなパッケージも、生成AIが作成したと発表しています。
日本コカ・コーラ
日本コカ・コーラは2023年、生成AIを活用した「Create Real Magic」キャンペーンを実施しました。生成AIが組み込まれたプラットフォーム「Create Real Magic」を利用して、ユーザーはボトルやロゴなどを取り入れたオリジナルのアート作品を作れます。生成AIを活用した消費者参加型広告として、話題となりました。
パルコ
パルコは2023年、生成AIを駆使した広告「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」を制作・公開しました。
実在のモデルを使った撮影は行わず、人物・背景・音楽・ナレーションなど、すべて生成AIで作成しています。世界トップクラスのデジタルクリエイターと生成AIのコラボによって、これまでにないファッション広告を創りあげ、独特の世界観を生み出しました。
au
KDDIは2024年1月、auのテレビCM「三太郎シリーズ」を、生成AIを活用してアニメーションにリメイクしました。
また、生成AIを使って自分だけの三太郎MVが作れる特設サイトも開設しました。こちらは2024年のやりたいことをニックネームとともに入力すると、その内容に応じて生成AIが歌詞・イラスト・歌声を生成するというもの。
見るだけでなく参加する、新しいかたちのCMとして注目されました。
マーケティングに活用できる生成AI
ここからはマーケティングに活用できる生成AIをご紹介します。文書・画像・動画を自動で生成するものや、SEOに強いツールなど4つピックアップしました。
ChatGPT
生成AIといえば、多くの人はまずこのChatGPTを思い浮かべるでしょう。自然言語処理モデルをもとにした、対話型生成AIサービスです。人と会話しているような感覚でメール・コンテンツ作成、データの分析やグラフの作成、テキストの要約・翻訳、画像の作成もできます。無料版があり、手軽に使えるのも魅力です。
Catchy(キャッチー)
Catchyは、ChatGPTを搭載したライティング支援ツールです。キャッチコピー・ブログ記事・LINEの返信・ビジネスメールなどが作成できるほか、新規事業のアイデア提案にも対応しています。文章の精度が高く、質問したことに対して気の利いた回答もしてくれます。マーケティングをはじめ、幅広いジャンルで活用できる生成AIです。
cre8tiveAI(クリエイティブAI)
cre8tiveAIは、生成AIを活用した写真やイラスト、動画などの編集ツールです。画像の高画質化・キャラクターのイラスト生成・似顔絵作成・写真からの動画生成などの機能があります。高度な画像編集ソフトを使いこなす人だけでなく、クリエイティブに関心のあるすべての人が利用できるように、というコンセプトで、操作性はシンプル。コストパフォーマンスの高いツールです。
Value AI Writer
Value AI Writerは、SEOに特化したライティング支援ツールです。検索上位のサイトを参考にして、生成AIが高品質の記事を短時間で作成します。搭載している機能は、記事作成・キーワードからのタイトル生成・編集サポート・長文の要約・画像生成などです。書きたい記事のターゲットを設定すれば、ペルソナに合った文書が生成されます。プロのSEOライターのノウハウが搭載されたライティングツールであるといえるでしょう。
まとめ
生成AIはすでに、さまざまな企業のマーケティングに導入されています。効果的に活用することで、業務の効率化・コスト削減などのメリットがある一方で、情報漏洩や著作権侵害のリスクなど、見過ごせないデメリットも存在します。
生成AIをマーケティングにうまく活用できるかどうかは、使う人次第です。知識やスキルだけでなく、AI活用のリテラシーにも左右されます。生成AIの作成したコンテンツは必ず人の目で確認してください。また、すべてを生成AIに任せることなく、人によるコンテンツ作成も継続して行いましょう。
生成AIを適切に活用し、マーケティングの効率化と顧客満足度の向上を目指してください。