事業経営者が年齢を重ねるにつれ、大きな課題となってくるのが「後継者問題」ではないでしょうか。国は中小企業の事業承継をスムーズにするために、さまざまな施策を行っています。そのうちの1つ、「事業承継税制」について詳しく紹介します。
「事業承継税制」は、後継者が取得する資産にかかる税金(相続税または贈与税)が免除される制度であり、できれば有効活用して資産が減るのを防ぎたいものです。しかし、企業の5年後・10年後の業績次第ではデメリットとして働きかねないため、二の足を踏んでしまう方も多いのではないでしょうか。
「事業承継税制」を正しく理解して有効に活用できるよう、本記事を参考にしてください。
新しい事業承継税制について
事業承継税制には、2009年から施行されていた「一般事業承継税制」と、2018年の税制改正によって設けられた「特別事業承継税制」があります。「特別事業承継税制」は2027年までの10年間に適用される時限立法で、「新・事業承継税制」とも呼ばれています。
新しい事業承継税制では、中小企業の事業承継をスムーズにするために、さまざまな要件が拡大しています。いずれも、事業承継時における贈与税と相続税を減免または免除する仕組みですが、「特別事業承継税制」の方が、よりメリットが大きいと感じられるでしょう。
「特別事業承継税制」で、現経営者から相続する場合と、生前贈与される場合を解説します。
現経営者の死亡によって後継者への自社株式相続が発生した場合、特例事業承継税制が適用されると、相続税が「納税猶予」という扱いになります。
相続から5年間は必要書類の提出など要件がありますが、5年を経過すると比較的ゆるやかな要件のみとなります。この間に、要件を満たせなくなった場合には、再計算した相続税の支払いを命じられる可能性があります。
後継者への承継後、2代目の死亡による3代目への相続や、「特例事業承継税制」を適用した生前贈与が行われると、納税が猶予されていた税額が免除されます。3代にわたって事業承継することで、本来は2代目が支払うはずだった相続税を「実質ゼロ」とする仕組みです。
生前贈与の場合も、仕組みはほとんど変わらず、対象となる税金が「贈与税」および「相続税」の2種だということになります。
まず、現経営者から後継者へ自社株式を贈与する際に、特例事業承継税制を適用すると、贈与税が「納税猶予」されます。次に、先代経営者の死亡時、猶予されていた贈与税が免除され「贈与税は実質ゼロ」となります。
贈与税は免除されますが、自社株式は「先代の死亡によって相続した」とみなされ、他の相続財産とも合算され、相続税の対象となります。
算定上は相続税が発生しますが、このタイミングで「特例事業承継税制」の「相続税の納税猶予」に切り替え手続きを行うと、相続の場合と同様に納税が猶予されます。
以降も、相続の場合と同じく3代目に相続させることができ、その時点で「相続税も実質ゼロ」という扱いになります。
事業承継税制には、税金が減免されたり実質ゼロとなったりというメリットがありますが、税制の適用後に要件を満たせなくなった場合には、税金が再計算されたり、利子税が必要となったりというリスクがあります。
「一般事業承継税制」と「特別事業承継税制」のどちらを適用した方がリスクを負わずにすむか、要件を満たし続けるにはどうすれば良いかなど、細心の注意を払って申請しなければならないため、税制に精通した専門家のサポートを受けることをおすすめします。
事業承継税制を活用した場合には、以下のようなメリットがあります。
・自社株の贈与税・相続税の納税が猶予され、3代目への相続がなされれば「実質税金ゼロ」がかなう
・株式の評価額が流動的であるほど、納税額も算出しづらかったが、納税財源の確保に気を配らなくてもよい
・子どもが複数人いる場合、資産を預金と株式とに分けるなど、相続パターンを考えやすくなる
・必要な納税分を上乗せして株式を相続した場合、他の相続人から株式の取得に納税が必要なことが理解されにくくトラブルになることがあったが、その心配がなくなる
・納税のための現金化や物納などを考えずにすみ、資産の目減りを防げる
・「特別事業承継税制」を適用するには期限があるため、事業承継のタイミングを後継者側から提案しやすい
事業承継税制を活用した場合には、以下のようなデメリットが発生する場合があります。
・納税猶予期間が3代にわたるため、長期間の対策が必要となる
・税制適用後5年間は、都道府県と税務署へ毎年「継続届出書」を提出しなければならない
・適用後5年経過した後は3年に1度の提出だが、失念してしまった場合、適用取り消しの事態となる
・要件を満たせず、納税猶予が取り消された場合、利子税が必要となることがある
・適用要件が多岐にわたり、1つでも違反してしまうと適用取り消しとなってしまうため、注意し続けなければならない
・制度内容が複雑かつ長期間にわたるため、対応可能な専門家が少ない
・顧問税理士や事業承継コンサルタントへの依頼料・手数料が発生する
一般事業承継税制を適用するには、4つの要件について確認しておく必要があります。要件は「会社」「後継者」「現経営者」「担保」について、細かく定められています。特例事業承継税制とは微妙に異なる条件もあるため、正確に知っておきましょう。
特に留意しておきたい点には
・中小企業基本法で規定されている中小企業であること
・贈与と相続で後継者の要件が異なること
・現経営者および親族が保有する株式が50%以上であること
・納税猶予される額に見合った担保が必要となること
などがあります。
それぞれを詳しくみていきましょう。
一般事業承継税制が適用できる会社の要件として、まずは、「非上場企業であること」「従業員が1人以上いること」「風俗営業をしていないこと」「資産管理会社でないこと(従業員が5人以上いるなどの要件を満たす場合は適用可能)」という4つの要件を満たしている必要があります。
さらに、中小企業基本法で規定された中小企業であることが絶対要件です。中小企業法が規定する中小企業者とは、下表に該当する企業体ですが、資本金または従業員数が該当していれば「中小企業者」として認められます。
資本金と従業員数のどちらもが該当しない場合には、資本金を減らすことを検討してみてはいかがでしょうか。また、従業員数は社会保険加入者の人数で判定されることが多いので、正確に算出しておきましょう。
業種 | 資本金 | 従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5000万円以下 | 200人以下 |
後継者の要件は、贈与を受ける場合と相続を受ける場合とで異なります。
後継者が贈与を受ける場合には、以下の要件を満たしていることが求められます。
・贈与を受ける前の期間、3年以上継続して当該会社の役員であること
・贈与を受けるときに会社の代表者になっていること
・贈与を受けることによって会社の筆頭株主になること
・後継者および親族・同族関係者が保有する株式が全体の50%以上となること
・贈与後は取得した株式を譲渡せず、保有し続けること
後継者が相続を受ける場合には、以下の要件を満たしていることが求められます。
・相続時に会社役員であること
・相続から5か月以内に代表取締役に就任すること
・相続を受けることによって会社の筆頭株主になること
・後継者および親族・同族関係者が保有する株式が全体の50%以上となること
贈与・相続いずれの場合でも、税制適用時に後継者が会社役員でいる必要があることがポイントです。特に相続の場合は、タイミングを調整できないことから、後継者と目する人物は早めに役員として登記しておくと良いでしょう。
後継者の要件と同様に、現経営者=先代となる経営者に対する要件も細かく定められており、贈与と相続の場合でも若干異なる部分があります。違いに留意しながらチェックしておきましょう。
現経営者が贈与を実行する場合には、以下の要件を満たしていることが求められます。
・現経営者および同族関係者(親族など)が保有する株式が50%を超え、かつ、現経営者が親族・同族関係者のなかで筆頭株主であること
・過去に会社の代表者であったこと=贈与までに代表権を返上すること
つまり、先代となる経営者が代表取締役社長であるならば、贈与の際には、勇退または代表権のない取締役会長に就くなどして、代表権を後継者に移転しておく必要があるのです。株式の贈与の後に代表権を移転すると、一般事業承継税制を受けることができなくなるため、移譲のタイミングには注意しておきましょう。
現経営者からの相続となる場合には、以下の要件を満たしていることが求められます。
・会社の代表者であったこと
・現経営者および同族関係者(親族など)が保有する株式が50%を超え、かつ、現経営者が親族・同族関係者のなかで筆頭株主であること
事業承継税制の適用には、納税が猶予される相続税額・贈与税額・利子税に見合う担保の提供が必要です。担保として提供できる資産には、以下のものがあります。
・ 納税猶予の対象となる非上場株式(持ち株会社の持ち分でも可)
株式の全部を担保提供する必要があります。この場合は、譲渡制限が付されているものでも担保として提供できます。また、事業承継後に株式価額が下落しても、担保提供の追加を求められることはありません。
・不動産/国債・地方債/税務署が認める有価証券/税務署が認める保証人の保証など
一般事業承継税制と特例事業承継税制
事業承継税制を活用するには、2009年から施行されている一般事業承継税制と2018年から実施されている特例事業税制の違いを正しく理解しておく必要があります。特例事業承継税制の要件を満たせない場合には、一般事業承継税制が利用できるので、二段構えで要件を確認していくと良いでしょう。
特例事業承継税制は時限立法であり、要件を満たすことがわかっていても、2023年3月までに特例承継計画を提出しなければ対象外となってしまいます。
「特例承継計画」自体は3~4枚の用紙にまとめることもできますが、その基となる「事業承継計画」は企業の事業計画や後継者の教育、ステークホルダーの理解や資金面での承継対策など、さまざまな要素について記載しなければなりません。「事業承継にかかる税金実質ゼロ」のチャンスを逃さないよう、早め早めに動いておきましょう。
一般事業承継税制と特例事業承継税制の8つの違いについて、表にまとめました。
一般事業承継税制 | 特例事業承継税制 | |
特例承継計画の提出 | 不要 | 2023年3月31日までに提出 |
先代経営者からの相続・贈与の期間 | 期限なし特例事業承継税制の期間外では一般事業承継税制が適用される | 2027年12月31日までに相続・贈与を実行する必要がある |
対象株式 | 発行済み議決権株式総数の2/3の株式 | すべての株式 |
猶予対象評価額 | 評価額の80% | 評価額の100% |
後継者の人数 | 筆頭株主である代表者1人 | 後継者3人(10%以上の持ち株) |
雇用確保要件 | 従業員数が、5年平均で相続時(贈与時)の80%を下回らないこと | 従業員数が、5年平均で相続時(贈与時)の80%を下回った場合、その理由と認定支援機関の意見が記された書類を提出 |
相続・贈与時から5年後以降に株式の譲渡、解散の可否 | 民事再生や会社更生のときに限る。その時点での評価額で再計算し、超える部分の納税猶予額を免除。 | 「経営環境の変化をしめす一定の要件」が認められ、売却、合併による消滅、解散時には同様の制度が適用される。 |
相続時精算課税 | 推定相続人1人のみに適用 | 推定相続人以外も適用可 |
一般事業承継税制の活用を妨げていた「2/3の株式が対象」「猶予対象は80%」「雇用の80%を確保」などの要件がゆるめられ、税制上のメリットが非常に大きくなったことがわかります。「5年後の経営状況などわからない」と税制の活用に二の足を踏んでいた方も、検討する価値があると感じられるのではないでしょうか。
事業承継税制は必要な要件が多岐にわたり、各手続きにおいてもタイミングが重要なため、認定支援機関のサポートを受けながら準備を進めることをおすすめします。認定支援機関には、税理士・税理士法人・商工会議所・金融機関・公認会計士・弁護士などがあります。
事業承継税制は、本来支払うはずだった税金を「猶予」または「実質ゼロ」にしてくれる税制です。要件からはずれて納税することになったとしても、本来支払うはずだった税金を大きく超えることはありません。
まずは、一般事業承継税制の要件を満たしているか、また満たしていないとしたらどの点を是正すれば対象となることができるか確認しておきましょう。
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