事業承継における株式譲渡とは?特例や譲渡の方法など基本を解説

業承継における株式譲渡を考える男性

事業承継は早期の対策が必要

後継者不在など、将来の事業承継に不安を抱いている経営者の方も多いのではないでしょうか。事業承継は会社の行く末も左右する大きな問題です。自社に適した手法を見極め、入念な準備をするためには長い時間を要します。タイムリミットが迫ってから慌てて動くのではなく、早期に対策をとることが重要です。

今回は数ある事業承継の手法の中から、株式譲渡に焦点を絞って解説していきます。具体的な手順から、そのメリット・デメリットまでを詳しくご説明しますので、ぜひ事業承継対策の参考にしてみてください。

事業承継での株式譲渡とは?

事業承継による株式譲渡とは、現経営者が保有する株式を後継者に譲渡することで、会社の経営権を譲る手法です。国内の中小企業の多くは株式譲渡による事業承継を行っています。この理由はまずその他の方法に比べて、手続きが簡易であることが1つ。さらに会社の組織体制などはそのまま経営権だけが移動することで、従業員などへの影響が少ないことが挙げられます。

株式譲渡によって事業を譲り渡す先は2種類あり、現経営者の子息などの親族か、あるいは従業員など親族以外の後継者です。一般的に前者のパターンを親族内承継、後者を親族外承継といいます。M&Aとして他社に事業を承継する場合も、広い意味では後者の親族外承継に含まれます。

事業承継で株式譲渡する際の手順や流れ

それでは具体的に株式譲渡によって事業を承継する手順について見ていきましょう。大まかな流れとしては、取締役会で株式の譲渡を承認してもらい、承認が下りれば譲渡契約を交わし、名義変更をして完了となります。特に多くの株主の総意を得る必要のない小規模企業の場合、比較的容易に進めることができるでしょう。

ですが株式譲渡による事業承継には、会社法で定められた手続きが必要です。親族間の承継だからと油断して、正式な手順を踏まないと後から予想外のトラブルになる可能性もあります。事業承継について動き出す前に、正しい流れをきちんと理解しておきましょう。

株式に譲渡制限がないか確認する

まず手続きを進める前に、自社の株式に譲渡制限があるかどうかを確認しましょう。誰もが知る通り、公開会社であれば株式は自由に売買することが可能です。けれど非公開会社には株式の譲渡制限があります。そして非上場会社のほとんどは、この非公開会社に分類されるのです。

制限といっても、正しい手続きを踏めば問題なく株式の譲渡を行うことはできます。必要なのは、取締役会による承認です。取締役会が設置されていない会社の場合は、株主総会で承認を得る必要があります。小規模の会社の場合は株主の人数も少なく、承認を求めればすぐに総意を得てスムーズに手続きを進めることができるでしょう。

株式譲渡の承認請求をする

株式譲渡の承認請求は、正確に言うと会社に対して行います。会社として株式を譲渡しても良いかどうかの判断を下すのが、取締役会であったり株主総会になるのです。具体的な請求の手続きは各会社によって異なりますが、株式譲渡承認請求書という書類を提出するのが一般的です。譲渡する側の現経営者が、誰に譲渡するのか、どの株式をどれだけ譲渡するのか等を記載して作成します。

親族など身内で経営している場合、形式的な書類の作成や提出を省略することも多いでしょう。ですが譲渡される後継者が従業員など、外部の人間の可能性もあります。その場合は、できるだけ簡易化せずにきちんとした手続きを踏んでおくほうが、譲受する側の新経営者としての立場がより強固なものになるでしょう。

取締役会や株主総会を開催する

請求を受けて、今度は会社側がそれを承認する流れになります。先ほども述べたように、会社側の承認は取締役会の決議によって行われます。取締役会招集通知が出され、請求されたとおりに会社の株式を譲渡して問題が無いかの判断を下します。

会社によっては取締役会を設置していないため、代わりに株主総会がこの役割を担います。臨時に株主総会を開くことになるのですが、この場合も法的には株主総会招集通知が必要です。ですが株主が皆身内の人間である場合には、実際には議事録だけ作って、譲渡承認決議を行ったことにするケースもあります。さらには事前の承認も必須ではなく、譲渡後のいわゆる事後承諾でも承認は有効となります。

株式譲渡契約を交わす

会社側の株式譲渡についての承認が得られれば、いよいよ現経営者と事業を譲り受ける人との間の契約の段階になります。両社合意の上で、株式を売買する旨の契約書を作成します。記載する内容としては、譲渡する人の名前、譲受する人の名前、株式の種類と数、譲渡価格、会社の名称や住所などです。また取締役会か株主総会による承認などの前提事実や、売買取引についての保証事項なども記載していきます。

契約書を取り交わせば、当事者間の株式譲渡契約は完了です。なお対価の発生する売買ではない場合、無償での株式譲渡においてもしっかりと契約書は取り交わしておきます。後々のトラブルを避けるために、法律の専門家に契約書内容を事前にチェックしてもらうことも有効です。

株主名義を変更する

株式譲渡契約書を取り交わした後も、一番重要な手続きが残っています。それが株主名簿の書き換えです。譲渡契約が成立しても、名簿に株主としての名義を記載してもらわないと権利を主張することはできません。現経営者と事業を譲受する人とが共同で、株主名義書換請求書を提出し、会社側に書き換えを請求します。

株主名義書が書き換えられて、株主名簿記載事項証明書を受け取れば無事に手続きは完了です。株式譲渡による事業承継は、このように手続きそのものは比較的シンプルです。また行政機関のチェックを受けることもないため、つい簡易に済ませがちです。ですが新しい経営者がしっかりと権利を主張できるよう、必要な手続きや書類を省略しないようにしましょう。

事業承継で株式譲渡するメリット

事業承継で株式譲渡するメリット

株式譲渡は、事業承継の手法として多くのメリットがあります。特に手続きがシンプルであり、中小企業でも専門家や行政を介することなく自社で対応できるところが魅力でしょう。さらには経営者にとっては株式売却によって大きな利益を得られること、従業員にとっては経営者が変わるだけで影響を受けにくいなどのメリットもあります。

ここでは株式譲渡による事業承継のメリットを詳しく解説していきます。現経営者と事業を譲渡される人、さらには自社の従業員などの関係者にとって本当に最適な手段なのか、判断の材料になるでしょう。

簡単な手続きで事業承継できる

株式譲渡による事業承継は、何よりも手続きがシンプルで分かりやすいというメリットがあります。これは事業譲渡などの手法とは違い、組織体制はそのまま株主と経営者だけを変更するためです。会社の承認さえ得られれば、当事者間の譲渡契約だけで済んでしまうというのは大きな魅力です。

すでに述べたように、親族経営の中小企業などであれば必要書類だけ作成して、面倒な工程は省略することもあります。親族外承継で株式譲渡を選択すると、簡易化しすぎて後にトラブルとなる可能性もあるでしょう。ですが親族内承継の場合は、行政機関などを介さない株式譲渡の方が負担が少なく魅力的といえます。

売り手は短期間で現金を取得できる

株式譲渡の手法を選択すれば、現経営者は事業譲渡後に株式の売却益を得ることができます。現経営者と事業を譲渡される側との間で株式譲渡契約書を交わした後、事業を譲渡される側は速やかに契約で取り決めた金額で対価を支払います。現経営者は事業を売却した大きな利益を受け取って引退することができるのです。

高齢の経営者であれば、その利益を老後の資金に充てて、引退後の豊かな生活を送ることができます。また、まだまだ若く気力と体力の充実した人であれば、新しい事業を始めるための資金としても利用可能です。いずれにせよ短期間で現金が得られることで、第二の人生に様々な選択肢が生まれるでしょう。

従業員に与える影響を抑えやすい

株式譲渡は会社を丸ごと全て譲渡するスタイルなので、会社で働く従業員への影響が少ないことも魅力です。株式譲渡以外に事業譲渡などの手法もありますが、こちらは組織形態そのものの変更が必要になる可能性も高く、従業員の雇用や配置に影響が出ます。また取引先との契約のまき直しといった手間も出てきて、従業員の負担を増やすことになります。

中小規模の経営者であれば、長年働いてくれた従業員にとってベストな手法を選択肢したいという方も多いでしょう。株式譲渡であれば、事業承継をすることになっても従業員に不安を抱かせることなく、事業承継の前後で同じように仕事に励んでもらうことができます。

贈与や相続時の負担を抑えやすい

事業を譲渡される側にとって、株式譲渡であれば金銭的負担を少なくして事業を譲り受ける方法もあります。まず株式譲渡には、株式の対価をやり取りする売買の他にも、贈与と相続という手段があります。現経営者が存命中に無償で株式を譲渡するのが贈与、現経営者が亡くなることで株式が譲渡されるのが相続です。

贈与も相続も株式取得の対価は必要ありません。その分贈与税や相続税はかかりますが、まず贈与税であればある程度負担を減らすための対策もあります。税額は株式の価格に基づいて計算されるので、株価が低いタイミングで贈与する、一時的に株価を下げるといったやり方です。相続は現経営者がいつ亡くなるか分からないので、計画的に対策をとることはできません。しかし相続税のほうが贈与税よりも控除が大きく、そもそもの課税額が少なくなるというメリットもあります。

事業承継で株式譲渡するデメリット

事業承継で株式譲渡するデメリット

事業承継の流れのイメージをつかみ、そのメリットを知ることで、株式譲渡に興味を持った方も多いでしょう。ですが株式譲渡には、手続きが簡易で金銭的にもメリットがある一方、注意すべきデメリットもあります。

株式譲渡による事業承継のデメリットの多くは、現経営者ではなく事業を譲渡される側にとってのものです。ですが現経営者の方も自分が長年大切にしていた会社で不要な争いが起きたり、費用面で事業に悪影響が出ることは望まないはずです。メリットと併せてデメリットについてもしっかりと理解し、事業承継までに余裕をもって対策をとるようにしましょう。

譲渡額によっては税金の負担が大きくなる

事業を譲り受ける側の金銭的負担を減らすため、売買ではなく株式の贈与や相続といった手段を選ぶ場合もあるでしょう。確かに贈与あるいは相続では、譲渡される側に株式を買い取るだけの資金が無くても事業承継を行うことができます。

ですが贈与と相続には、それぞれ贈与税と相続税が発生します。贈与であれば基礎控除額となる110万円を超えた分は課税対象です。相続は基礎控除額がもっと大きく、3,000万円+600万円×法定相続人数となっていて、これを超えると税負担が生じます。ただ事業の譲渡を目的とする場合は特例制度があり、すでに述べた贈与のタイミングを調整する以外にも節税対策が可能です。特例事業承継税制と呼ばれ、事業を譲渡される側は納税を猶予あるいは免除してもらうことができます。

相続トラブルが起こる可能性がある

相続による株式譲渡はトラブルの原因にもなり得ます。事業承継に限らず、相続問題によって良好に見えた親族間の関係性が悪化することは珍しくないのです。現経営者の子息など家族間で譲渡する場合は比較的スムーズに済みますが、親族あるいは外部の人間に譲渡するのであれば注意が必要です。特に創業者とその家族で会社を大きくしたという認識が強い場合、外部の人間に無償で譲渡することに何らかの反発が起きる可能性は高いでしょう。

相続による事業譲渡では、正式な遺言書の用意が大切です。現経営者が後継者にしたい人に、しっかりと会社の株式が譲渡されるよう明記しておきましょう。また後々法定相続人から遺留分についての訴えを起こされないよう、そちらに対しても十分に配慮しておく必要があります。

債務も引き継がなければならない

株式譲渡による事業承継の手続きが簡易なのは、会社を包括的に譲渡して経営権だけを移動させるためでした。しかし会社を丸ごと引き継ぐことにはデメリットも存在し、後継者となる側は債務も一括で引き受けなくてはならないのです。事業承継前に可視化されている債務であればまだいいのですが、中には簿外債務や訴訟のリスクといった、後から発覚する負債もあります。

親族内で事業承継を行う場合は、株式譲渡後も前経営者と一緒に解決していくこともできるでしょう。ですが親族外承継などで予期せぬリスクをできる限り回避したいときには、デューデリジェンスという譲受先の企業調査を行う必要があります。デューデリジェンスについては後ほど詳しくご説明します。

デューデリジェンスのコストがかかる

売買による株式譲渡の事業承継の場合、必要となるのが売却企業の監査です。売却企業を調査して売却価格の決定や、あらかじめ想定できるリスクの洗い出しを行います。デューデリジェンスには財務や法務に関する専門的知識を要し、公認会計士や弁護士といった専門家に依頼するのが一般的です。

このためデューデリジェンスは事業を譲り受ける側にとって大きな金銭的負担になります。また綿密な調査が必要なため、多くの時間も費やさなくてはなりません。親族内承継や従業員が事業を受け継ぐ場合、デューデリジェンスは省略されることもあります。ですが先述のとおり、事業を譲り受ける側にとって株式譲渡は会社が抱えるリスクも包括的に引き受ける手法です。思いがけない負債で譲渡後のトラブルに見舞われないためには、デューデリジェンスは必須といえるでしょう。

事前に準備して円滑に事業承継しよう

事前に準備して円滑に事業承継しよう

株式譲渡による事業承継は比較的シンプルで、中小規模の企業でも自社で取り組みやすいでしょう。その一方で、贈与時の税額や相続トラブル、売買契約ならデューデリジェンスの手配といった課題もあることがお分かりいただけたと思います。株式譲渡という手法を選ぶのであれば、円滑な事業承継のために必要なのは何よりも早期の事前準備です。最適な贈与のタイミングについて検討する、相続のための遺言書の準備、綿密なデューデリジェンスなど余裕を持って計画することが大切です。

現経営者の高齢化などによってタイムリミットが近づく前に、早めにトラブル回避のために必要な対策を講じるようにしましょう。

この記事を書いた人

DX支援メディア編集長
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