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今やM&Aは中小規模の企業経営者にとっても身近な言葉となりました。ですが実際に他社の事業を買収したいと考えたとき、具体的にどのような手法があるか理解していない方も多いでしょう。
一口にM&Aといっても、その種類はさまざまです。今回はM&Aのすべての手法を一覧にしてご紹介します。それぞれの特性を比較することで、自社のM&Aに適したやり方が見えてくるでしょう。
M&Aは会社と従業員の命運をも左右する、非常に重要な問題です。もっと別の手段を選べば良かったという後悔を残さないよう、自社に最適な手法を見極めましょう。
M&Aとは「Mergers(買収) and Aqcuisitions(合併)」の意味で、その名のとおり買収と合併の2種類があります。買収とは企業が他社の株式を取得して買い取ることです。一方、合併は2つ以上の企業が1つになることを意味します。
買収と合併のなかでも手法によってさらに細かな分類があり、M&Aを行うときにはそれぞれの手法の特性を知っておく必要があります。
従来のイメージから、M&Aというと敵対的な買収や一方的な吸収合併のことだと思われるかもしれません。ですが実際には、双方の企業が手を携えて発展的な関係を作っていくM&Aが増えています。特に中小企業間のM&Aでは仲介会社などに入ってもらい、友好的な雰囲気のなかで交渉を進めていくのが主流です。
まずは買収によるM&Aの手法について見ていきましょう。大きく分けると買収によるM&Aは株式取得と会社分割、そして事業譲渡の3種類です。株式取得はさらに手法によって株式交換・株式移転・株式譲渡・第三者割当増資・TOB・MBOの6つに分類されます。
買収によるM&Aは複雑ですが、ここではそれぞれをわかりやすく比較して解説します。どの手法を選択するかによって、統合後の経営にも大きく影響します。特に買い手側企業の経営者の方は、各メリットとデメリットについてよく理解しておきましょう。
M&Aで最も一般的といえるのが、売り手側企業の会社株式を買い手側が買い取る「株式取得」の方法です。株式会社においては、持株比率がそのまま会社への影響力の割合となります。過半数の株式を取得すれば会社経営権が、さらに3分の2以上の株式を取得すれば他の株主の同意なしに重要事項の決定が行えます。M&Aで他社を買収するというのは、他社の株式を買い取ることで、会社の経営権を得るという意味です。
株式取得はさらに6つの手法に分類されます。ここではそれぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。
売り手企業の株式を買う対価として、買い手企業の株式を渡すのが株式交換です。これにより買い手企業は、売り手企業の株を100%所有して経営権を得て、売り手企業は買い手企業の子会社となります。
買い手企業にとって手元に資金が無くても買収できるのが、株式交換の大きなメリットです。また株式交換であれば、売り手側企業の株主の中に反対勢力があっても、売り手企業の株式を3分の2以上取得していれば特別決議によって強制的に実行することが可能です。
売り手企業にとっても買い手企業の株式を保有することで、統合によるシナジーから利益を得られます。また子会社として従来の組織体制はそのまま維持でき、従業員の負担も少なく済みます。
株式移転は株式交換と対をなす手法です。株式移転では買い手企業とは別に会社を新設し、その新会社の株式を買収の対価にします。売り手企業は新会社の子会社という形になり、株式交換同様に組織体制はそのまま存続します。
株式移転はある程度、対等な立場での経営統合に好んで用いられます。経営難で苦しむ企業も、その企業との経営統合でシナジーを得たい企業も、共に新会社の傘下に入ることで、それぞれの独立性が保てます。また複数の会社でM&Aを行う場合も、新しくそれらを統括する新会社を設立できる株式移転の手法が適しています。
株式譲渡は売り手企業の株式の対価として、買い手企業が現金を支払う手法です。手続きが簡易でスムーズなため、現在国内の中小企業間では株式譲渡によってM&Aを行うのが一般的です。
特に売り手側の経営者が多額の現金を得られるという点で、事業承継のためのM&A手法として好まれています。株式譲渡では株式交換や株式移転と同じく、法人格を維持し、買い手企業の同意が得られれば経営者も残留することは可能です。ですが事業承継の場合は、売り手企業の経営者は会社の売却益を得て完全に引退することになります。
資本業務提携などを目的として活用されるのが、第三者割当増資です。これは既存の株式を買い手企業が取得するのではなく、売り手企業が新たな株式を発行して買い手企業に割り当てるという手法です。既存の株式もあるため買い手側は100%の株式取得はできず、売り手企業を完全子会社にすることはできません。
第三者割当増資は、企業が敵対的買収などから会社を守るために行われることもあります。3分の2以上の株式を買い手企業に取得されるのを防ぐため、新たな株式を発行して買い手企業の持ち株比率を下げる戦略です。第三者割当増資では割当先を売り手企業が選択できるので、そうした防衛策から友好的なM&Aまでさまざまな活用が可能です。
敵対的買収でよく用いられるのが、TOB(テイク・オーバー・ビット)です。株式公開買い付けという別名は耳にしたことがある方も多いでしょう。その名のとおり、買い手企業が買収先として狙いを定めた企業の株を買い取ることを告知し、対象となる上場企業の複数の株主から直接株式を取得するという手法です。
TOBでは告知の際に、あらかじめ買取りの予定株数を設定しておきます。もし最終的にその数字に達しなかった場合は、TOBを取り消すことが可能です。金融商品取引所を通さない個々の株主との直接取引で、取り消しの場合はそのまま株を返却できます。リスク無しに買収に挑戦できるということで、近年注目されるようになった手法です。
TOBと同じく認知度が高まってきたのが、MBO(マネジメント・バイ・アウト)です。経営者や従業員が自社や事業部門を買収し、経営権を確保する手法になります。金融機関やファンドから資金を調達して実行するのが一般的です。
TOBは敵対的買収のための買い手側の戦法でしたが、MBOは逆に敵対的買収から売り手側が身を守るために使われる手段です。身内で株式を取得することで、会社の独立性を維持します。また業績不振などで上場を廃止せざるを得ない場合や、事業承継の手段として選択されることもあります。
買い手企業が売り手企業の株式を取得する株式取得とは違い、会社の権利義務の一部もしくは全部をそのまま承継されるのが会社分割です。買い手企業は売り手企業の会社の権利義務を承継する対価として、自社の株式を渡します。株式取得に比べて手続きが非常に煩雑で、中小企業のM&Aではあまり利用されません。
会社分割は、売り手側企業の積極的な組織再編のための手法として用いられるのが一般的です。例えば事業を多角的に展開してきたけれど、今後は得意分野に集中していきたいというとき、その他の部門を他社にそのまま承継することで切り離すことができます。株式取得が会社を経営権ごと譲渡するのに対して、会社分割は会社の中の1つの事業を権利義務の関係ごと譲渡するというイメージです。
会社分割よりもさらに細かく譲渡内容を定められるのが、事業譲渡です。会社分割も事業譲渡も会社丸ごとではなく、一部の事業だけを譲渡するという点では同じです。しかし事業譲渡は、その事業が有する資産の一つひとつについて個別に譲渡契約を結びます。例えば設備や従業員は受け継ぐけれど、在庫は受け継がないといった選択も可能になります。
事業譲渡は、1つの事業を包括的に引き継ぐ会社分割とは対になる手法です。資産を個別に取捨選択できることは買い手企業にとっては魅力的ですが、それだけ手続きは煩雑になります。例えば従業員からは転籍の同意書をもらう必要があったり、取引先や不動産の賃貸などの契約関係も移転するので、契約相手が同意しないためにM&Aが進まないという可能性もあります。
買収に対するもう一つのM&A手法は、合併です。売り手企業の組織体制を残したまま事業を譲渡できる買収と違い、合併においては被合併側の企業は消滅することになります。その分2つの企業の統合は完全なものとなり、高いシナジー効果が見込めることがメリットです。
合併はさらに吸収合併と新設合併という2つの手法に分類されます。ここではそれぞれのメリット・デメリットについても分かりやすく解説します。
吸収合併とは企業が別の企業を、権利や債務もすべてひっくるめて自社に取り込むことを指します。合併を行う企業はその法人格を維持し、合併された側の企業は消滅します。従業員や取引先との契約などはすべて無条件で合併した側の企業に引き継がれることになります。
吸収合併のメリットは、包括的に被合併企業を取り込めることです。1つの会社が保有している許認可や免許を他社に引継ぐことは難しいのですが、吸収合併であればスムーズに自社に取り込み、合併後すぐに活用することができます。デメリットとしては統合の負荷が大きいことです。被合併企業の組織を分解して1つの会社として再編するため、従業員にとっても負担が大きく、法的な手続きも煩雑になります。
新設合併では新しく設立した会社に、2つの会社が共に合併されるという形をとります。片方の会社がもう片方に吸収される吸収合併とは違い、より対等な関係での合併となります。それぞれの会社の機能を1つの会社の中で再編できるので、グループ会社同士でより生産規模を拡大したり、工程を統一して効率化する目的で新設合併が行われます。
新設合併は数あるM&Aの手法の中でも、2社の関係を対等に保てるという点で特に有効な手法です。どちらかがもう片方に対して従属的な立場になると、その会社の従業員はモチベーションが下がる傾向にあります。新設合併であれば、どちらの会社も一度消滅して、同じ一つの会社としてスタートできるので、従業員の心理的抵抗も少ないでしょう。しかしまったく新しい会社を設立するということもあり、手続きの負担も特に大きい手法です。
ここまですべてのM&A手法について確認し、それぞれのメリットやデメリットについてもお分かりいただけたかと思います。ですが実際にM&Aを実行するにあたっては、専門的な知識やノウハウを持った専門家の意見を聞くのがおすすめです。
特にM&Aでは多くの場合、事業を受け継ぐ側は現金や株式といった対価を支払わなくてはなりません。専門家に相手企業の正確な評価を行ってもらい、そのうえで最適な手法による買収、あるいは合併を目指すべきです。まずはM&A仲介会社など頼れるパートナーを見つけて、総合的にどのような手法が自社に適しているのか相談してみましょう。
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