目次
M&Aを活用して他社を買収しようと考えたとき、売買価格はどのくらいになるんだろうと考える方は多いでしょう。最終的には双方の希望を擦り合わせて合意のうえで価格を決定するとはいえ、ある程度の相場を知ったうえで交渉に臨むほうが安心です。
M&Aの価格相場には決まった計算方法があります。その計算方法に基づいた数値や、買収先企業から得られる企業情報などから、おおよその相場を出すことが可能です。また他にもM&Aの相場を決める要素はいくつもあります。
例えば調剤薬局、飲食店、保育園、クリニックなど業種ごとの相場もあるでしょう。今回はM&Aにおける買収価格の相場の考え方について詳しく見ていきましょう。
まずはM&Aの相場を決定する要素を解説します。最も分かりやすいのは、財務諸表などから読み取れる、目に見える資産です。買収先企業の純資産の数値さえあれば、売買価格を算定できると思うかもしれません。
しかし実際には他にも、数字には現れない無形資産や市場価値、さらにはM&A成立後のシナジーから得られる利益も考慮されます。
ここではそれら4つの要素について詳しく解説します。M&Aの価格を決める基本的な考え方を正しく理解し、相手先企業を適正に評価できるようにしましょう。
シンプルで誰の目にも分かりやすいのが、買収先企業の純資産です。会社の財務諸表などにはっきりと現れる具体的な数字で、売り手と買い手双方にとって納得しやすい要素となるでしょう。
実際のところ、中小企業間のM&Aで一般的な売買価格の相場は、売り手企業の純資産に3年から5年分の利益をプラスしたものになります。
しかし実際の企業の価値とは、目に見える数字だけで計れるものではありません。特に中小企業を買収しようと考えたとき、買い手側も相手企業が保有する技術やノウハウ、人材、顧客リストなどの数字には現れない価値に重きを置いているケースが多いでしょう。純資産の数字だけに基づく考え方では、売り手側の企業の納得を得られない場合があります。
技術やブランド力や従業員、あるいは市場シェアなどは、無形資産として売買価格決定の要素となります。中小企業にとって特に重要な要素で、売り手側は自社の無形資産を根拠として売却価格を高く設定してほしいと考える傾向にあります。
買い手企業にとっても、他社の無形資産は大きな魅力です。特に新規事業への参入を目的としたM&Aの場合、売り手側の顧客リストが手に入れば新規開拓のコストが抑えられます。また必要なスキルやノウハウを持った従業員を迎え入れることで、人材育成の手間も省けるでしょう。
同業同士のM&Aでも、自社と売り手側のシェアを合わせることで、一気に市場でトップに踊り出る可能性もあります。無形資産を適正に評価することで、交渉を円滑に進められるでしょう。
売り手企業の市場における企業価値も、考慮に入れる必要があるでしょう。中小企業のM&Aでは、買い手側が売り手企業の株式を買い取る株式譲渡の手法が一般的に用いられていますが、本来株式の価格には企業の市場価値が大きく反映されます。
非上場の売り手企業の市場価値を算出するためには、同じ業種の上場企業の株式相場や、売り手企業の経営指標などが基準となります。市場価値を適正に判断することで、お互いに納得のしやすい客観的な売買価格を導き出しやすくなるでしょう。
重要な要素ともいえるのが、買い手側が統合後に期待する利益です。買収はその利益を見込んで行われるものです。そのため売買価値を決定するにあたっては、現在の売り手企業の価値だけでなく、将来的な利益も考慮に入れる必要があるでしょう。先ほど述べた一般的な算出方法で、純資産にプラスされる3年から5年ほどの利益が、将来的な利益を考慮した数字になります。
通常この部分は、これまでの実績をベースとして考えます。そのため売り手側の経営状況が黒字の場合に適用されるのが一般的ですが、将来的に大きな利益が見込めそうな技術などを保有している場合はその限りではありません。他社に無いような突出した技術やブランド力がある会社には、通常よりも高い見込みの利益が上乗せされます。
次にM&Aの売買価格を算出する計算方法について、具体的に見ていきましょう。売買価格は大まかに分けて3つの側面からアプローチして算出されます。1つめが純資産に基づいて計算するコストアプローチ。次に市場価値を基準にするマーケットアプローチ。最後がM&A後に期待できる利益やリスクを考慮するインカムアプローチです。
それぞれ基準とするものが違うので、同じ会社の売買価格でも計算方法によって大きな違いがでます。そのなかでもやはり売り手企業はより高く、買い手企業はより低く算出できる方法を選択しようとするでしょう。交渉を円滑に進めるためにも、それぞれの計算方法の特性を知っておきましょう。
3つのアプローチ方法のなかで、最も分かりやすく双方が納得しやすいのはコストアプローチでしょう。売り手企業の資産と負債とを合わせた純資産によって売買価格を決定します。貸借対照表から容易に算出でき、売り手企業の価値が反映された客観的な数字です。
中小企業は上場企業と違って市場価値を評価するのが難しく、このコストアプローチが多く用いられています。一方でコストアプローチは、あくまでも現時点での企業価値のみを基準としていて、将来的な利益などは反映されづらいという難点もあります。
コストアプローチには、簿価純資産法と時価純資産法という2種類の方法があります。ほとんどの場合、実際に決定されるのは時価純資産法のほうです。ここではそれぞれの違いを正しく理解しておきましょう。
簿価純資産法は、帳簿上の純資産に基づいて企業価値を算出する方法です。帳簿上の売り手企業の資産から負債を差し引いた数を、発行済みの株式の数で割ることで、1株あたりの価格を決定します。非常にシンプルで、明解な方法です。
しかし帳簿上の数字しか見ないこの計算方法には問題点もあります。例えば回収が難しい売掛金など、含み損となる目に見えない数字はここに反映されません。そのため簿価純資産法で算出される企業価値は、実態とはかけ離れているケースがほとんどです。計算方法が分かりやすくても、双方の納得を得にくいために現在はあまり用いられることはありません。
簿価純資産法に比べて、より実際の企業価値を反映しているのが時価純資産法です。M&Aにおいて企業評価を行うとき、まずその時点での企業の資産と負債とを時価になおします。
そのうえでその2つを合計した数字に基づき、企業価値を算出する方法です。これにより帳簿上の数字と企業の実態との乖離という問題点をクリアできます。
しかし時価純資産法にも、将来的な利益については反映がされていないというデメリットはあります。特に売り手側の中小企業は、時価純資産法によって決定された売買価格では納得できない場合もあるでしょう。そのため時価純資産法で算出した数字に、将来の一定期間の利益をプラスして売買価格を決定するというケースが多く見られます。
本来の企業価値とは、企業を取り巻く業界の情勢や市場の動向と切り離して考えることはできないものです。そのためそれらの要素に重点をおいて企業価値を算出しようとするのが、マーケットアプローチです。マーケットアプローチで基準になるのは、株式市場やM&A市場などで成立する価格です。
マーケットアプローチは、さらに市場株価法と類似会社比較法の2種類に分かれます。非上場の中小企業では客観的な市場価値が計りづらいこともあって、類似の会社の数字をサンプルとして用いる類似会社比較法が用いられます。ここでは2つのアプローチ方法について解説していきます。
上場企業の場合、その企業の株式市場での株価を基準として企業価値を算出することができます。現時点での市場価格だけでなく、過去の取引価格を参考にするケースもあります。市場でその企業がどのように評価されているかが価格に反映され、市場価値という意味で公平性の高い算出方法でもあります。
ただし市場株価法は、当然ながら非上場企業のM&Aにおいては用いることができません。また一時的な株価の変動によって売買価格が左右されないよう、1か月から3か月分の平均値をとったり、不自然な株価の動きがある場合はその部分を除いて計算するなどの工夫も必要です。
一見して客観的に正しい企業価値が算出できる方法に見えますが、外的要因により本来の株価とは違ったサンプルをとらないように注意しましょう。
M&Aにおいて中小企業の売買価格をマーケットアプローチから決定しようとすると、類似会社比較法を選択することになります。類似会社比較法は、その名のとおり上場企業の中で同業種の類似企業を選定し、その株式価値や財務指標を参考にして、M&A対象企業の株式価値を算出する方法です。
類似会社比較法を使えば、非上場の中小企業でも市場の動向を反映した売買価格を設定することが可能です。ただし裏を返せば市場の動向に左右されて、同じ企業でもタイミングによってかなり価格に違いが出るリスクがあります。またサンプルとしてどの類似企業を選定するかも重要な問題です。客観性をもたせるために、可能な限り複数の類似企業をサンプルとして選ぶほうがいいでしょう。
M&Aにおける企業価値の計算方法として一般的なのが、インカムアプローチです。売り手企業の収益価値、すなわち利益やキャッシュフロー、配当などの将来的に得られるリターンを、現在の価値に還元して企業価値を決定します。現在の価値に還元するときには、将来的な利益だけでなくリスクも加味されます。
インカムアプローチで代表的な算出方法はDCF法です。その他に配当還元法やモンテカルロDCF法、リアルオプション法など複数の方法があります。ここではインカムアプローチの中でも抑えておくべきDCF法と配当還元法について見ておきましょう。
DCF法は、すでに述べた時価純資産法とよく対比して語られる方法です。どちらもM&Aにおける企業評価の一般的な方法ですが、配当還元法との違いは売り手企業が将来的に生み出すキャッシュフローを基準とするところです。
そこからリスクなどを加味して、現在価値に割り引いた価格で評価額を算出します。将来的により多くのキャッシュを獲得すると思われる企業ほど、高い評価額がつくことになります。
時価純資産法が中小企業の一般的な評価方法なのに対し、DCF法は将来の利益を合理的に反映できるというメリットから大企業の評価でよく用いられます。その際判断材料となるのが将来の事業計画書です。正しい評価を得るためには、精度が高く信頼できる事業計画書の作成が必須となります。
配当還元法で基準となるのは、売り手企業の株主に支払われる配当金です。配当金額から10%割り戻すことで、期待値を割り引いて企業価値を算出します。株主に直接支払われる配当金を基準とすることで、客観的に株主価値を評価できます。
配当還元法を用いるべきなのは、企業の価値が株主への配当金に、安定して適切に反映されている場合です。現時点では株主への配当金に還元できていない成長企業などは、将来性などを加味すると本来の企業価値よりは低い評価額をつけられることになるでしょう。また現時点では、欠損のために株主配当ができていないという企業も不利になります。
最後にM&Aの相場を調べようとするとき、留意しておきたいポイントをお伝えします。実際に買収先企業の価格相場を知りたいと思ったとき、多くの方はM&A仲介会社などの専門家に相談するでしょう。しかし、実は同じ会社の価格相場でも、相談する相手によって教えられる額がまったく違ったものになり得るのです。
現在では多くのM&A仲介会社が存在し、それぞれに得意・不得意な業種があります。例えば美容室や飲食店などの店舗型サービスを多く取り扱う仲介会社に、IT企業や会計事務所や保険代理店、あるいは医療法人の売買価格について相談するのは賢明とはいえません。
適正な売買価格を知るためには、まずその業種に精通した相談相手を選定することが大切です。過去の実績などから、相手の得意とする業種を見極めるようにしましょう。
今回はM&Aの売買価格の相場を決定する要素と、具体的な計算方法を解説しました。M&Aは会社の将来をかけた重要な問題ですから、経営者自身である程度の価格相場を判断することは大切です。ですが実際に交渉に臨む前には、M&Aの専門家に依頼して適正な価格を算出してもらうようにしましょう。
定められた手数料を支払えば、M&Aの仲介会社なら価格の判断だけでなく、買収先の選定や交渉の仲介なども任せることができます。当事者だけでM&Aを進めるよりも、双方が納得できる適正価格で成立する可能性が高くなるでしょう。
弊社の提供する営業DXツールと、オンラインセールス支援サービスにおけるノウハウをカンタンにまとめた資料データを無償配布しております。
是非、皆様の営業にお役立て下さい。