後継者選びと育成がメインの事業承継ですが、実は費用面の対策も重要です。特に事業承継にかかる税金は、節税対策をするのとしないのとでは負担額にかなりの違いが現れます。早めの対策で少しでも各種の費用負担を抑え、賢く事業承継したいとお考えの経営者の方も多いでしょう。
今回は事業承継にかかる費用全般を解説します。それぞれの費用を理解し、負担を軽減できるポイントを押さえておきましょう。後半では事業承継による税負担を実質免除される制度や、事業承継で受けられる補助金についても紹介します。
事業承継を行うときに発生し得る費用は主に4つです。
・弁護士への相談費用
・税理士や会計士に支払う費用
・仲介会社に支払う費用
・M&Aアドバイザーに支払う費用
このうち仲介会社やM&Aアドバイザーに支払う費用は、親族や社内の人材など身近なところで後継者が見つからず、M&Aによって事業承継を行う際にかかる費用です。
M&Aでは第三者に依頼して、相手候補の選定や交渉をしてもらうため、親族などに事業を引き継ぐ場合より費用負担が大きくなります。M&Aによる事業承継を進めるときは、あらかじめ依頼料の負担があることを念頭に置いておきましょう。ここではその他の専門家に支払う費用についても解説します。
事業承継では弁護士のサポートを頼る場面も出てきます。会社法で定められた事業承継の手続きに関して相談するとき、事業承継に伴って変更する必要がある契約書などの確認、金融機関への個人保証の取消・変更などです。
特に現経営者の子息へ事業を引き継ぐ親族内承継の場合、株式という多額の資産をめぐって相続争いが起きる可能性があります。弁護士はこうした問題に精通しているため、あらかじめ必要な対策を教えてもらえるでしょう。
弁護士の費用は依頼先の法律事務所や、事業承継を考えている企業規模などによって異なりますが、1時間で1万〜3万円程の料金がかかるので、心づもりしておきましょう。また別途着手金も発生し、事業承継問題であれば相場は30万円~となっています。
税理士および会計士の手数料は、事業承継する企業規模よりも業務の内容やその難易度によって決定します。税理士や会計士に依頼できるのは、主に自社の株式の評価、税負担のシミュレーションなどです。
また後述する事業承継税制に関する手続きも任せられますし、事業承継を多く扱っている税理士や公認会計士であれば、組織再編計画や経営計画の策定も請け負っています。
依頼先の事務所によって各業務の料金設定に違いはありますが、目安として一つの業務につき10万〜30万円程度を相場として見込んでおきましょう。平均的な難易度の事業承継で、関わる業務のすべてを依頼すると、おおよそ400万〜450万円程の料金が発生します。
M&Aによる事業承継を選択する場合、多くは仲介会社にサポートを依頼することになるでしょう。買い手候補の企業とマッチングしてもらい、中立の立場として交渉が円滑に進むよう助けてもらえます。
仲介会社に支払う費用には、4種類あります。着手金・リテイナーフィー(月額報酬)・中間報酬・成功報酬です。このうち着手金やリテイナーフィーは無料とする仲介会社も増えており、M&A手数料の総額は会社によってかなりの違いがあります。
一般的なモデルケースとして、着手金が50万〜100万円、中間報酬は取引金額の10%が一つの目安となります。成功報酬は多くの会社がレーマン方式という特殊な計算式を用いています。取引金額の5億円以下の部分は5%、5億円を超えて10億円以下の部分には4%の料率をかけて、報酬を導き出します。これに従うと、例えばM&Aの取引金額7億円の場合は、成功報酬は3,300万円です。
M&Aによる事業承継の場合、仲介会社ではなくM&Aアドバイザーを頼るのも一つの方法です。中立的立場の仲介会社と違って、アドバイザーは100%依頼主の利益のために動いてくれます。その分発生する費用も依頼主がすべて支払うことになるため、一般的に費用負担は大きくなるでしょう。
アドバイザーにマッチングや交渉のサポートを依頼する場合は、着手金は仲介会社と同じく50万円〜、成功報酬は比較的安く取引金額の1〜5%となっています。
また他にも事業承継を考えている会社であれば、自社の企業としての価値を算定してもらえる、あるいはM&Aで必要となる契約書を作成してもらえるといったサービスも受けられます。中小企業であれば価値の算定は100万円未満、契約書作成は50万円以内で対応してもらえるでしょう。
ここまでは専門家やM&Aに関するサービスの費用を解説しましたが、次は事業承継で発生する税金の種類を見ていきましょう。事業承継を検討するときに備えておかなくてはならない税負担は以下の5つです。
・相続税
・贈与税
・消費税
・法人税
・登録免許税や不動産取得税
このうち事業を譲渡する側が負担する可能性があるのは、M&Aで事業を売却することによって発生する法人税あるいは消費税のみです。しかし自身の家族や親戚に事業を引き継ぐ際は、相続税や贈与税の対策も一緒に考えることになるでしょう。それぞれの税の内容について、詳しく解説します。
相続税は現経営者が亡くなったとき、遺産として後継者が株式を相続することで発生する税金です。多くの場合は現経営者の子息や兄弟、あるいは甥や姪が相続人となって、株式と共に経営権を受け継ぐことになります。
相続税のポイントは、現経営者の死亡のタイミングで発生する税金であり、いつ税負担が生じるか選べないところです。現経営者が死亡したときの評価額にもよりますが、株式にかかる相続税はかなり大きな負担となるでしょう。予期せず発生した相続税の負担に苦しめられる後継者も、現実として少なからず存在しています。
節税を考えるときは、税理士などに相談して現経営者が健在のうちにできるだけの対策を練っておく必要があるでしょう。
相続税とは違い、現経営者が健在のうちに後継者へと株式を譲渡することで発生するのが贈与税です。こちらも株式譲渡時の評価額によって税額が決定します。贈与税は相続税とは違い、譲渡のタイミングを計画的に選べます。後継者も突然の税負担に悩まされることはなく、前もって準備できるところがメリットといえるでしょう。
相続税も贈与税も累進課税の対象であり、受け継ぐ財産の額が大きいほどに税負担も高額になります。そのため贈与税であれば、事業承継のタイミングで会社の評価額を一時的に低くする節税対策が有効です。贈与による事業承継が決定した時点で、まずは税理士に相談してみましょう。
一般的な事業承継において消費税は発生しません。しかし事業譲渡を行う場合、譲渡する側に消費税の負担が生じるケースがあります。売買という形で、対価を得て事業を譲渡すれば消費税を収める必要があるのです。
これは株式の売買取引が、ほとんどの場合現金を対価とするためです。事業を売却して得た現金は所得扱いになり、個々の資産が移動することで消費税が発生します。この場合の消費税の税率も、一般的な消費税と同じです。軽減税率には該当しないので、10%の税率をかけて計算されることになります。
法人税もまた、一般的な事業承継では考える必要がありません。法人税が発生するのは、消費税と同じく事業譲渡という形で個々の資産を売却する場合です。会社が得たその売却益に対して税負担が発生します。
法人税は個人ではなく、事業を売却した企業にかけられる税金です。そのため相続税や贈与税とは違い、企業規模によって税率が計算されることになります。事業譲渡による承継は稀ですが、もし検討する場合には税理士などに税負担について、あらかじめ確認しましょう。
事業承継で後継者が不動産を受け継ぐ場合、登録免許税と不動産取得税を収めなくてはなりません。ただし不動産取得税は、譲渡する側が死亡したことによる相続では発生しないので注意が必要です。
登録免許税とは、新たに土地・建物を所有した際に、その権利を登記するために支払う税金です。事業承継で不動産を受け継いだ場合は、固定資産額の2%が課税されます。一方で不動産取得税は登記とは関係なく、新たに土地を所有したり建物を建造することで課税される税金です。不動産価格に3%の税率をかけて算出されます。
事業承継で発生する手数料と税金の種類を確認したところで、次は少しでも負担を抑えて事業承継する方法を解説します。ポイントは以下の3つです。
・専門家の依頼にかかる費用を比較する
・事業承継税制を適用させる
・事業承継補助金(事業承継・引継ぎ補助金)を活用する
民間のサービスに関しては、やはり事務所や会社ごとの料金体系を比較し、自社にとって必要最小限のサービスで対応してもらえる事業者を選ぶことが大切です。税負担については、事業承継促進の目的から特例制度が設けられているので積極的に活用しましょう。また条件によっては補助金の申請も可能です。それぞれ詳しく解説します。
各分野の士業の専門家や、M&Aの仲介会社を選ぶときは、料金をしっかり比較してから検討しましょう。
特に事業承継では、弁護士や税理士、公認会計士といった専門家のサポートは避けて通れません。だからこそ自社が必要としている業務内容を明確にし、それに対して必要なコストを見極めるようにしましょう。よく分からないからと言われるままにすべて任せしてしまうと、想定外の費用負担に苦しめられるかもしれません。
またM&Aをサポートしてくれる仲介会社は、料金体系そのものに各社違いがあります。着手金やシテイナーフィーが無料だからお得だと思って契約したところ、成功報酬の計算方法が違ったために、結果的に高くついた事例もあります。まずは各社の料金システムを比較しておくことが大切です。
2027年12月までの相続と贈与に関しては、事業承継税制という税負担を実質免除してもらえる制度も利用できます。これは後継者が引き継いだ会社を廃業したり、株式を売却しない限りは、相続税や贈与税の支払いを無期限で猶予してもらえる制度です。
事業承継税制は原則として、資産管理会社をのぞく中小企業であれば利用できます。ただし後継者が遅くとも2024年6月末までに役員として就任していること、現経営者は制度を利用するときまでに全株式を手放して引退していることといった条件が付きます。
また事業承継税制を利用するためには、2024年3月末までに特例承継計画書を策定して、各都道府県知事の認定を受けることが求められます。このスケジュールに合わせて事業承継を進めていくのは大変ですが、税負担の免除は大きなメリットになるので検討してはいかがでしょうか。
2022年4年実施予定の事業承継補助金制度についても見ておきましょう。この制度は、事業承継を契機とした新たな取り組み、あるいは事業承継成功のための士業や仲介会社サービスの利用に対して、中小企業が国から補助金を受けられるものです。2021年度にも実施されています。
対象となる取り組みはさまざまで、事業戦略のためのコンサルティング費用、設備投資、販路拡大、あるいはM&A仲介会社の手数料や、古い事業の廃業費用も含まれます。いずれも補助率は2分の1で、上限額は内容によって異なります。
3月までを目処に予算成立、その後に申請を受け付ける予定となっています。最大で500万円の補助が受けられる制度となっているので、ぜひ今後の動きに注目してください。
今回は事業承継で発生する手数料や税金の種類を解説しました。どのような費用負担が発生するかは、事業承継のスタイルによっても異なりますが、費用負担を抑えるための3つのポイントは、いずれも中小企業経営者が知っておくべき内容となっています。
事業承継対策の要は、後継者の選定・育成です。現経営者は事業承継に向けて動き出してからは、手数料や節税対策よりも重要なことに時間と労力を割かなくてはなりません。だからこそ余裕のあるうちに資金面も織り込んだ計画を立案し、スムーズに事業承継を進めていきましょう。
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