【最終更新日:2022年1月3日】
「営業」は自社の製品や代理店契約をしたメーカーの商品をお客さまに販売するのが仕事です。BtoBかBtoCかといった違いはありますが、一般的な営業では値段がある程度決まっている「モノ」または「サービス」を販売していることでしょう。
対して、「システム営業」「IT営業」と呼ばれる職種があります。営業職のなかでも専門性が高いといわれるシステム営業について、基本とプロセス別のノウハウを解説します。
目次
システム営業とは?
システム営業とは、情報システムやIT・コンピューター技術に関わるサービスや機器の導入をお客さまに案内するのが仕事です。パッケージ化されている製品もありますが、お客さまごとにカスタマイズした開発が求められることもあります。
システム営業はさらに以下の4つに大別できます。
・SI営業=企業のシステム構築(システムインテグレーション)に関わる
・ハード営業=サーバなどのハードウェアに関わる
・ソフト営業=ソフトウェアに関わる
・ネットワーク営業=通信設備の構築やセキュリティに関わる
また、「売って終わり・導入すれば終わり」ではなく、お客さまがそのシステムを使い続ける限りスムーズな運用をフォローしていくという役割も担っています。ITシステムの進化スピードは目覚ましく、常に最新の知識にアップデートしていく姿勢が大切です。
システム営業の流れ
システム営業の扱う「商品」は形のあるものではなく、お客さま企業が抱えている課題や悩みに対しての「解決手段」をITソリューションとして提示・案内することです。
一般的な営業職でも「課題解決」は重要なキーワードですが、初めから出来上がっているモノに結びつけるのと、「ないのなら作りましょう」という提案になるのとでは大きな違いがあります。
この違いに留意して、システム営業の流れを確認していきましょう。
ヒアリング
システム営業では、何よりもこのヒアリングが重要です。お客さまの課題や悩みを丁寧に掘り下げ、ITソリューションで解決できることはないか探ります。
「売上向上」「業務の効率化」など漠然とした希望に対して、「売上向上のためには何が必要か」「業務を妨げている要因は何か」など具体的に聞き出すことが、より良い提案書を作るスタート地点になります。
商品の紹介
一般的な営業でも自社の商品やサービスを紹介することは当たり前に行われています。しかし、システム営業では手に取って触れるもの扱っているわけではないので、過去の事例や検証データが重要な情報となります。
企画の提案
商品紹介で興味を持ってもらえたら、より具体的にお客さまが運用した場合のシミュレーションやオプションで解決できることなどを提案します。
ここではシステムに矛盾が生じるような提案や開発に膨大な時間がかかるような提案をすることは避けなければいけません。商品理解と顧客理解が十分になされて初めて企画が成り立ちます。
プリセールス
プリセールスでは技術者も同行して、ソフトやシステムについて詳しい説明を行います。実際の開発内容や運用手順にまで話が及ぶこともあるでしょう。システム営業は技術者とお客さまのパイプ役として双方の言葉を同時通訳し、お客さまの要望を間違いなく反映させつつ実現可能なシステムに落とし込むという役割を担います。
クロージング
企業の大規模なシステム変更に関わる提案の場合、コンペ形式や相見積もりとなることが少なくありません。経過を見守るだけでなく、一般的な営業と同様にクロージングをかけて熱意を伝えましょう。
システムの運用や管理
システムが採用されても、使いこなせる人間が社内にいなかったり、トラブルが頻発してしまったりしては導入の効果は思うように得られないでしょう。システムの定着率を高めるための運用マニュアル作成や社内研修、トラブルを未然に防ぐ定期チェックなどもシステム営業の任務です。
システム営業のプロセス別ノウハウ
システム営業の特徴として、各プロセスに必要な準備が複雑で、時間も相応にかかりやすいということがあります。自身の案件がどの段階にあるのか、また必要なノウハウを確認することでゴールまでの道筋がみえやすくなるでしょう。
7つのプロセスとそのノウハウを解説します。
企業分析のノウハウ
ターゲット企業の分析には、業界動向などの大局的な分析と、事業内容の課題や提案システムに見合った財務状況にあるかといった個別の分析が必要です。
業界動向は単純なニュース検索やプレスリリースなどでも知ることができ、タイムリーな話題は商談時の会話の糸口にも利用できるでしょう。
事業内容の課題を探るには、ターゲット企業を研究することはもちろん、競合を複数分析し、ターゲット企業の強みや業界でのポジションを知っておきましょう。成長分野で強みを持っているターゲットなら、滑り出しの契約が小口であっても、のちに高額契約へとつながる可能性もあります。
財務状況を知るには損益計算書を読み解く必要がありますが、営業が押さえておくべきは「黒字か赤字か」という点です。赤字経営が続いている企業では大規模な投資は見込めませんが、赤字を回復させたいという意向は強く持っているはずなので、ビジネスチャンスととらえることもできます。
黒字経営のターゲットなら同規模の競合他社のデータから、「どの程度の規模の投資が妥当か」「システムに割り当てられる予算はどのくらいか」などの概算を掴んでおきましょう。
ヒアリングのノウハウ
ヒアリングはお客さまのニーズと自社商品のマッチングを探るプロセスともいえます。お客さまの課題や問題点を具体的に掘り下げていきましょう。
システム営業独自のヒアリング項目としては、
・決定権は誰にあるのか
・導入が前提か、担当者の発信で社内稟議となるのか
・コンペ形式の場合は価格以外の比較項目
などを聞き出せるとよいでしょう。
ほかに予算規模や納期の想定を知っておき、その枠内で実施可能なシステムと予算増大や開発に時間をかける価値があると思ってもらえるようなシステムの2本立てで提案を準備します。
商品紹介のノウハウ
「商品紹介」とはいえ、自社商品の特徴や料金プランを並べ立てるだけでは押し売りと変わらず、お客さまの気持ちも離れていってしまうでしょう。導入することで「何ができるのか」「今までとどう変わるのか」「どんな効果が期待できるのか」など、お客さま目線でのわかりやすい説明を心掛けましょう。
また、自社開発のソリューションならば、開発チームの思いを乗せたトークも効果的です。日頃から開発スタッフとコミュニケーションをとり、こだわりのポイントや使いやすさへの工夫などを知っておき商品紹介へ盛り込むと、血の通ったシステムとしてお客さまの心を動かしやすくなるでしょう。
解決策考案のノウハウ
ヒアリングや商品紹介をしたときに得た情報を基に、提案書へと結びつける解決策を考案していきます。
まずは、ターゲット企業の課題・弱みをひたすらに書き出し、ある程度の数が出そろったらグループ分けを行います。「売上向上」「コストカット・効率化」「法規制・時代性への対応」の3カテゴリに分類されるものがほとんどでしょう。これらの企業課題に分けられないものは、それほど重要度が高くない事象だと考えてよいでしょう。
次に、カテゴリ内でそれぞれの問題の因果関係を考察し、ツリー構造にまとめていきます。書き出された問題は並列な事柄ではなく、大きな問題の中に細かな問題が含まれていることや、問題同士をつなぐミッシングリンクに気付くことができるでしょう。
最後に、課題解消のために自社商品をどのように活用すればよいのか検討していきます。
担当営業マンが1人で考案するのなら、ポストイットやパワーポイントを使うと考えが整理されやすいのでおすすめです。チーム営業の場合はホワイトボードや模造紙など、ブレーンストーミングしやすい環境を準備しましょう。
提案書作成のノウハウ
解決策考案のノウハウにのっとって作られた提案書は、ITコンサルティングの要素を持ったオリジナリティのあるものとなるでしょう。「似たような課題を持ったお客さまだから同じ資料でいいか」といったスタンスでは、お客さまに見抜かれてしまいます。1件1件の課題に合わせ、それを充たす自社の商品価値をわかりやすく伝えましょう。
提案書の作成で注意したい点を4つご紹介します。
・タイトルは商品名だけでなく課題をリンクさせる
NG例:「〇〇システムのご案内」
良いタイトル例:「□□問題を解消する〇〇システムのご案内」
・1ページには1テーマのみ
同じページに複数のテーマを掲載すると印象がぼやけてしまいます。文字量もなるべく抑え、最大400文字程度を目安としましょう。社内稟議にかけられた際や再確認したいときに、流し読みでも把握しやすいことが大切です。
・図解を多用する
グラフや図解は手間がかかると敬遠されがちですが、その手間以上に伝わりやすくなるものなので、図解できる部分はないか提案書を見直してみましょう。図式化が難しいのであれば、文字の大小・囲み・色付け・矢印などで工夫します。
・導入効果をアピールする
「問題を解決します」という言葉だけでは、「根拠がない」と一蹴されてしまう恐れがあります。過去の事例やシミュレーションで、裏付けのある費用対効果をアピールしましょう。
プレゼンテーションのノウハウ
システム営業は「モノ売りではない」と解説してきましたが、プレゼンの目的はやはり「買っていただく」ことです。購買意欲をそそるプレゼンテーションは物販営業に学ぶところが多いでしょう。実演販売やテレビショッピングなどのトークの組み立てを分析することもスキル向上に役立ちます。
システム営業の言葉に聞き入ってもらえるプレゼンのコツを3つご紹介します。
・提案書+アルファのプレゼン
提案書を読み上げるだけのプレゼンではお客さまの眠気を誘い、「あとで読んでおくよ」となってしまいかねません。「ここだけの話」「裏事情」「〇〇さんだから言いますけど」など耳よりなトークを盛り込みましょう。
・デモンストレーションを同時に
提案書とともにデモ画面や操作方法をみてもらえると、実際の使用シーンが想定でき購買後の不安が解消されるでしょう。それだけにデモ操作で不具合が生じたり、他社データが入力されていたりすると一気に信用を失ってしまうリスクもあります。リハーサルを十分に行い、不安があれば技術者に操作を代行してもらうなど、万全を期してプレゼンに臨みましょう。
・キーメッセージはドラマティックに
あまり演出が過ぎるとかえって引かれてしまう恐れもありますが、提案書のキモとなる部分では「ゆっくりと」「抑揚をつけて」「堂々と復唱する」ことをおすすめします。お客さまの印象に残るよう、舞台役者になったつもりで熱意を伝えましょう。
クロージングのノウハウ
プレゼンテーションを終えたらあとはお客さまの判断を待つだけ、というのは得策ではありません。クロージングまでが営業活動だととらえて、できることを探りましょう。
お客さまが導入を迷っているポイントはどこなのか、不安に感じている点は何かを想定して、再ヒアリング・再プレゼンの機会を願い出ることも1つの手法です。解消できない不安点については「デメリットはそこだけです」と言い切り、メリットのほうが大きいことを伝えます。
大きな契約を結ぶためには、「機能限定での無料体験」「少人数での試用期間」「ミニマムのプランから」といったスモールステップへ誘導していくことも効果的でしょう。
まとめ
システム営業の基本とプロセス別のノウハウをご紹介しました。これらのノウハウを実践すれば、お客さまに納得してもらえる提案を準備することができるでしょう。
お客さま企業の課題をみつけ、解消していくシステム営業のプロセスはコンサルタントの要素も多く含んでいます。システム営業は、課題解決が実現したときには「営業さんのおかげ」「ありがとう」と感謝される、やりがいの大きい営業職だといえるでしょう。